研究の最終年度にあたる平成30年度は、本研究を開始以前からの予備調査を含めて、5回目のパナマ運河訪問を行い、パナマ運河庁、海運企業、日本大使館、貿易事業者を含む関係者に対してヒアリングを実施し、パナマ運河の拡張工事による国際物流と貿易への影響について、研究計画に基づいて調査を行った。過去10年以内に、世界の物流の大動脈であるスエズ運河の拡張工事、北極海航路の実用化に向けた取りくみ、中国政府の一帯一路政策に基づく陸路と海路の貿易路の開拓と並んで、パナマ運河の拡張工事による大型船舶の航行は、国際物流と世界の貿易において重要性を持つと考えるからである。 パナマ運河拡張とパナマ国内で進行中の物流インフラストラクチャーの拡充は、北米、アジア、ヨーロッパを結ぶ海運の主要航路の通過点に位置するパナマが、ここを起点とするハブアンドスポークシステムの構築により、パナマを結節点とするサプライ・チェーンを担う可能性があると考えた。本研究のタイトルの「パナマ運河の拡張による国際物流と国際貿易への影響」とは、パナマを中心として世界の物流の経路が変化し、パナマを経由して中南米と域外のアジア、北米やヨーロッパとの貿易が拡大することが想定できるとの仮説をもって、この効果について分析を行った。 平成28年6月末のパナマ運河の拡張工事の完工から2年半が経過したが、パナマ国内のインフラストラクチャーの整備が遅れていること、海運企業の大型船舶への配船に要する時間、中南米3カ国が加盟するTPPの発効の遅れなどから、まだ期待された効果の規模は大きくはないが、現時点で今後の変化に向けた基盤となりつつあると考えられる。 本研究の成果は、国際物流の国際学会、THE 10TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON LOGISTICS & TRANSPORT 2018を含めて、研究者だけでなく一般にも広く発表した。
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