研究実績の概要 |
本研究の目的は、発売前に需要が不確実で、発売後にその市場価値が急速に逓減する商品に注目し、このような商品に対する消費者の購買意思決定と、それを踏まえた小売店の顧客関係管理のあり方を考察することである。今年度は、研究目的に挙げた3つの課題のうちの1つである研究課題2(顧客の購買行動のモデル化)に関する論文について、国際学会IFCS-2017のポスト-プロシーディングスの査読者コメントに対応した修正を行い、掲載が決まった。この論文では、Zhang, Bradlow and Small (2015)が提案した顧客の購買間隔の不規則性(購買が集中する期間があり、その時期が予測できないこと)を測る指標Clumpiness(以下C指標)が、顧客の将来の購買行動を予測するために有意な変数であるかを検証した。Zhang, Bradlow and Small (2015)は、C指標が顧客の将来の購買行動を予測するために有意であると主張していたが、別のデータを用いて行った我々の検証ではその結果は再現できなかった。しかし、別の指標と組合わせた交互効果は有意であり、提案者の意図とは異なるがC指標に基づき、購買間隔の規則性を測ることが可能であり、そのことに基づき優良顧客を見いだすことができることが明らかとなった。あくまで一例ではあるが、先行研究の主張の鵜呑みにせず、その妥当性を検証することの重要性が示唆される。研究目的に挙げた残りの研究課題である、新ブランドの普及を説明するための消費者間ネットワークに関する人工市場モデルの構築、および当該ブランドのマーケティング戦略がそのブランドの普及に与える影響のシミュレーションについて、研究の途上であり発表には至らなかった。研究期間全体を通じては、不確実性下な需要の下での顧客の購買行動の特徴付けと売り手の価格決定に関する理論的整理について一定の成果を得た。
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