本研究の目的は、小売業とそれをとりまく周辺産業(製造業、卸売業、配送業など)の標準化が社会・経済に与える影響を考察することである。この目的のもとで、本研究が焦点を当てた現象は、都心部に生じた「フードデザート」(近隣に生鮮食品を販売する事業者がいないために食料品の入手が困難な住民がいるエリア)をめぐる小売業者間の競争である。フードデザートという新市場を巡っては、多くの既存・新規小売業態(独立系店舗小売業、チェーン系店舗小売業、インターネット小売業者、宅配業者など)が周辺産業を巻き込みながら競争しているため、調査対象は多岐に渡ることになった。 当初計画では、新市場に参入した事業者内での他部門・多業態との相互作用、ベンダーである製造企業や卸売企業・物流企業との相互作用、顧客との相互作用、商圏における競合店との相互作用の分析を行い、プレイヤー間の相互作用の全体像をモデル化した上で、実証可能 な部分について定量的な検証を行う予定であった。しかし、本研究が分析の対象とした「フードデザート」という新市場をめぐる競争は想定以上に変動が激しかったため、定性的な調査に予想以上の時間を要すことになり、1年の研究期間の延長を経たのち、次の実績を得ることができた。 それは、新市場をめぐる消費者を含めたプレイヤー間の相互作用の全体像の一端を明らかにすることができた点である。さらに、小商圏における小売業者間の競争の帰結としての顧客満足に関する定量調査を実施することで、都心のフードデザートにおける新規・既存小売業態を主役とした周辺産業を巻き込んだ競争がどのような顧客価値を実現したのかを明らかにすることができた。
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