研究課題/領域番号 |
15K03745
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中出 哲 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40570049)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 損害保険の契約理論 / イギリス2015年保険法 / 北欧海上保険通則 / 再保険契約法原則 |
研究実績の概要 |
本研究は、海上保険を中心として、企業保険の契約理論を研究するものである。本研究では、文献等の研究に加えて、関係する約款を収集し、市場関係者にヒアリングして考察する方法をとり、(ⅰ)主要市場における海上保険取引の調査、(ⅱ)主要市場の標準約款の相互比較研究、(ⅲ)保険契約理論の研究を研究の柱としている。2015年度は、研究初年度として、情報収集と約款取引の基礎となる法律を中心に、以下を実施した。 1.市場や取引約款の動きの調査:東京、ロンドン、オスロー、ベルゲンで海上保険市場関係者との面談を行い、関係約款等を収集し、基礎となる法律の動きも調査した。 2.イギリス2015年保険法の研究:同法は、イギリス約款の国際的競争力を維持していくために、企業保険契約のデフォルト・ルールを整備するもので、国際的保険約款や保険契約理論に大きな影響を与える重要な法律であり、その内容を詳細に研究した。 3.北欧約款の研究:ノルウェーに出張し(出張費用は早稲田大学の別予算を利用)、保険約款に関する資料・解説書を収集するとともに、複数の約款作成者と面談して、北欧約款における理論やメリット等を確認し、将来の研究協力の確認も得た。内容の詳細研究は2016年度になる。 4.各種情報収集と人的ネットワークの構築:2015年9月からは、エクセター大学法学部に在籍し、保険法や契約法の研究者からイギリス法について有益な情報を得るとともに、研究者のネットワークを広げた。また、イギリス保険法学会やヨーロッパ保険法学会等への参加を通じて、研究者との交流を深めた。2015年に、再保険法に関する国際的な法整備に向けた再保険契約法原則プロジェクト(PRICL)が始まり、それに参加することとなり、再保険分野の契約理論の比較研究にも着手し、人脈を広げることができた。これらは、今後の研究において重要な基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、2015年度は、初年度として、関係する情報収集を行うこととして、文献等の収集と保険会社等とのヒアリングを進め、ロンドンでの学会参加やEUの専門機関への訪問を計画していた。2015年度は、以下の通り、全体としては当初計画に照らしておおむね順調に進展しているものと考える。 イギリスの状況については、企業約款のベースとなるイギリス法の研究を深めた。特に、2015年9月から在籍しているエクセター大学法学部では、国際的な保険契約に大きな影響を持つ2015年イギリス法について研究を深めることができた。本立法にも関係したエクセター大学の教授等から、同法の解釈や運用について情報を得ることができた。同法については、日本損害保険協会で翻訳することになり、筆者は、その監訳と同法の解説を論文誌に掲載することになった(損害保険研究、2016年8月出版予定)。イギリス2015年法の研究は、今後の科研費研究における重要な基礎になるものであり、有益な基礎作りをすることができた。 また、北欧海上保険約款については、ノルウェーにて、約款作成者と面談することができ、保険約款の資料・解説書の収集に加え、北欧約款の理論やメリット等を確認することができた。また、将来の研究協力の確認を得ることができた。 なお、イギリスについては、2015年法の研究に力を入れたために、ロンドンにおける約款取引のヒアリング等は、引き続き次年度にも行う予定である。また、北欧約款については、ノルウェーにのみ出張した状況であり、スウェーデン、デンマークなどの状況については、今後、補強していく予定である。 全般として、2015年度は、在外研究でイギリスに滞在したことから、そのことの利点を生かして、情報収集を進め、また、欧州の研究者との交流のネットワークも広げることができ、今後の研究を進めていく基盤を整備することができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、2016年及び2017年度は、情報収集を引き続き進めるとともに、標準約款の相互比較研究を基にした保険契約理論の研究を深める計画を立てている。2016年度からは、研究が進んだテーマごとに、成果を発信していく。 まず、主要市場の調査については、2015年度に資料等の収集を進めたが、今後も、世界保険法学会やその他の国際会議等も利用して、企業保険約款の動きやその法的基盤、保険契約理論についての情報収集を進めていく。研究実施計画では、2016年度は、EUのほか、ニューヨークやバミューダにも出張調査することを計画していたが、まずは、2015年度に実施したイギリスと北欧の調査を更に深めて、ドイツなどの調査を加えることとし、ニューヨークやバミューダについては、研究の進捗に照らして調査対象とするかを検討していくことにする。 2016年度は、研究2年目となるので、これまでの研究の公表にも力をいれる。まず、イギリスの2015年保険法に関して、2016年度夏に概括的な報告論文を発表する予定である。また、北欧の海上保険約款については、2015年度に多くの資料・情報を入手できたので、2016年は、その研究を深めて、その成果を2016年から2017年に論文としてまとめていくことを目標とする。その過程では、再度、オスロ大学海事法研究所等を訪問して、疑問点等について専門家にヒアリングして、論文としての完成度を高めていく。必要に応じて、北欧約款を利用するその他の国の調査も行う。なお、北欧約款については、わが国ではほとんど知られていないため、比較研究の論文は日本語として日本で公表することを考えている。 実施計画では、外国でわが国の法律や契約等についての国際的発信も行うことも計画している。2016年6月にハンブルクでわが国の海上保険法改正の報告を行う予定である(ハンブルク大学等からの招聘)。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は、以下のとおりである。 当初計画では、2015年度にイギリスから欧州に3回出張することを計画していたが、研究出張は、ノルウェー出張のみ実施し、かつノルウェー出張費用は、早稲田大学の予算を利用して科研費は利用しなかった。研究の順序として、2015年度は、イギリスと北欧の調査に集中したために、ドイツ等については、次年度に行うことにした。また、文献資料等についても、イギリスは、2015年法関係を中心としたので、それ以外の資料・文献やドイツの文献等は、次年度に収集する。
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次年度使用額の使用計画 |
北欧約款については、2015年度に収集した資料に基づき研究を進め、2016年度に再度オスロに研究出張をして、北欧約款の起草者等との意見交換を行い、論文執筆を進めていく計画である。北欧の他の国への出張も行って、研究を補強することも考えている。 また、ドイツについては、2016年度中に、調査を開始し、関係資料や図書も入手する計画である。
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