本研究では,ASBJ(日本),FASB(アメリカ),IASB(国際)の3会計基準設定主体のリスク志向性の相違が,具体的な会計基準の内容の相違として反映されるとの前提に立ち,会計基準のリスク志向性についての検討を行った。特に資産除去債務およびリストラクチャリングに関する会計基準を題材とした分析を行い,以下のことを明らかにした。 ASBJとFASBのリスク志向性はリスク回避的である。ASBJとFASBにおける会計基準の規定する会計処理では会計数値の変動性の回避が意識されている。このため,会計数値の確定性が高まり,また,伝統的な利害調整機能に要求される会計数値の硬度を高めることに結び付いている。ASBJとFASBにおける保守的志向性が,今日に至ってなお会計基準に固着しているものと解釈される。 他方,IASBはリスク中立に近い。その時点で最も有用(あるいはレリバント)な会計情報の作成を最大の考慮事項としており,会計数値の確定性には拘泥していない。この意味で,情報の価値の最大化という視点では,IASBの会計基準がASBJとFASBの会計基準よりも高品質の会計情報の生成に結びつくと理解できる一方,実務で培われた利害調整機能の面も含めれば必ずしも高品質とは言えないとの理解も可能である。 国際的な会計基準の統一を考える場合に考慮すべき種々の事項のうち,会計基準設定主体のリスク志向性も1つのファクターである。本研究の今後の拡張として,財務諸表/財務報告の利用者および作成者や規制当局のリスク志向性の検討が考えられる。
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