本年度は次の3つの研究を行なった。 第1に、会社分割によるM&Aと退職給付に係る負債との関係について実証分析を行った。分析の結果、退職給付に係る負債が大きいほど、会社分割によるM&Aが実施される可能性が高いことを示す実証結果が得られた。 第2に、内部負債である退職給付に係る負債が株主還元の変更に与える影響について実証分析を実施した。その結果、次の2点が明らかになった。1つは、退職給付に係る負債が大きいほど、配当総額や株主還元総額を減少する傾向が強くなるということである。退職給付に係る負債が大きいほど、減配になったり、あるいは自社株買いの金額が少なくなるのである。いま1つは、退職給付に係る負債が大きいほど、配当総額や株主還元総額の減少額が大きくなるという点である。つまり、退職給付に係る負債が大きいほど、減配を実施する場合の減配される金額が大きくなり、自社株買いを削減するとしてもその削減額がより大きくなることを意味する。 第3に、株主還元の積極化と退職給付に係る負債との関係について実証分析を行った。その結果、次の4点を明らかにした。(1)、退職給付に係る負債が大きいほど、増配も自社株買いも実施しない可能性よりも、安定配当かつ自社株買いを実施する可能性、および増配かつ自社株買い実施の可能性が低下するということである。(2、)退職給付に係る負債が大きいほど、増配だけを実施する可能性よりも、安定配当かつ自社株買いの実施、および増配かつ自社株買い実施の可能性が低下するといことである。(3)、自社株買いを実施しない場合、退職給付に係る負債は安定配当とするか増配するかという選択に対して影響を与えないということである。(4)、自社株買いを行う場合も、退職給付に係る負債は安定配当あるいは増配を実施するかという選択に対して、影響を与えないということである。
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