(1)研究の目的:不確実性下における利益計画法として提案された「確率的CVP分析」は、数多くの研究成果を生み出しながら1990 年代以降その研究は激減した。一方1980 年代末には、不確実な資本投資に関する意思決定手法として「リアルオプション法」が提案されたが,これらの意思決定モデルは,わが国の管理会計実務に定着することはなかった。管理会計においてCVP分析による利益計画と事業投資に係わる資本予算とは異なる実務として位置づけられるが、管理会計の研究領域において両者が入れ替わるように登場したことには,管理会計上の意思決定手法に関する重要な意義(示唆)があったと考えられる。本研究は、その意義を「確率的CVP分析とは、利益および投資意思決定ならびに企業価値評価手法としてのリアルオプション分析という視点から動学的に拡張される」ところにあると捉え、管理会計における種々の意思決定にとって,リアルオプション・アプローチが有用であることを理論的かつ実証的に明らかにすることを目的としている。 (2)研究の実績:この目的を達成するために,2015年度および2016年度には,それぞれ確率的CVP分析および残余利益モデルをリアルオプションモデルとして動学化した。これらの成果は,日本会計研究学会等の学会プロシーディングスおよび日本リアルオプション学会の機関誌に掲載された。さらに2017年度は,地方でのリアルオプション研究ならびに地方の主要企業へのリアルオプション法の普及を目的として,日本リアルオプション学会を金沢市で開催した。その際の報告では,新たに「財務諸表をシステムダイナミックスと呼ばれるシミュレーション・プログラムによって記述し,これを用いて企業買収により発生した「のれん」の理論価値をリアルオプションとして評価するシミュレーションを実行し,さらにこの手法を最適買収戦略に適用できることを示した。
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