実証分析:統合報告発行の規定要因について財務的説明責任と正統性の観点から分析を昨年度に引き続き行っているが、理論的背景の補強を行った。また、環境パフォーマンスと統合報告書発行の関係についてロバストネスチェックを行った。さらには、社会パフォーマンスと統合報告書発行の関係についても分析を行った。その結果、日本においては社会・環境パフォーマンスの良い企業ほど早期に統合報告書を発行している一方で、英国では社会・環境パフォーマンスと企業の統合報告書発行の関係は明らかにならなかった。しかし、産業別で見てみると、日本では環境負荷が低いと考えられている産業において社会・環境パフォーマンスの良い企業ほど、また環境負荷が高いと考えられている産業において社会・環境パフォーマンスの悪い企業ほど早期に統合報告書を発行している一方で、英国では環境負荷が高いと考えられている産業において社会・環境パフォーマンスの悪い企業ほど早期に統合報告書を発行していることが明らかとなった。また時間とともに、環境負荷が高いと考えられている産業における社会・環境パフォーマンスと統合報告書発行の負の関係は弱まっていくことが同時に明らかとなった。こうした結果は、前回行った結果と大きく変わっておらず、結果がロバストであることを示唆している。
内容評価分析:昨年度に引き続き、日本企業が発行している統合報告書の内容がきちんと株主・投資家が求める内容になっているのかについて、英国で既に研究がなされている分析枠組みに沿って批判的対話分析を行った。今年度はそれに加え、サステナビリティ報告書の内容についても同様の枠組みで分析を行い、報告書間で比較した。その結果、統合報告書ではより株主・投資家が求める内容に、サステナビリティ報告書ではよりマルチステークホルダーが求める内容になっている傾向が明らかとなった。
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