ここ数年、企業法や経営学、さらには全社的リスク・マネジメント論等の領域を中心として、取締役会の改変を軸に会社統治改革の議論が盛んである。そこでは会社不祥事の防止といった守りの側面に目を向けながらも、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と企業価値の向上を図る「攻めのガバナンス」の立場が見られる。 こうした状況に対して本研究は、応募者が長年に渡り研究を進めてきたフランス流のコントロール論におけるパラドックス概念を基軸に据えて、上記の会社統治改革論議に新しい視点から一つの解決策を提案した。その新しい視点とは、コントロールのパラドックスを緩和する一つの手段として付加価値ベースのビジネス・モデルを用い、そのモデルをガバナンスのレベルにおいて活用することを通して、ガバナンスの担い手である取締役会をコントロールするシステムを追究するものであった。最終年度における具体的な実績は、別掲の2論文に示されているし、また研究課題に関連した研究報告としては、これも別掲の2報告(国内学会での単独報告と国際学会での共同報告)がある。また、研究課題に関連する書評2編を書き上げたことも最終年度の実績として書き留めておきたい。 本研究が提案するビジネス・モデルによって見えてきたものは、グローバル経済や国民経済といったマクロレベルから、メゾレベルとされる企業経営者のもとに降りてくる「持続的発展」といった言説のもとに進められるフランスでの新しい試みである「社会的共創コントロール論」の実践的な提案である。そこで注視すべきは、フランス流の付加価値ベースのビジネス・モデルが戦略的コントロールのなかにあって、ガバナンスをコントロールする「戦略的タブロー・ド・ボール」として性格づけられる可能性である。この意味で、本研究は今後も、日仏を中心とした国内外の研究動向に繋がる可能性を秘めたものとなっている。
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