研究課題/領域番号 |
15K03781
|
研究機関 | 千葉経済大学 |
研究代表者 |
佐藤 恵 千葉経済大学, 経済学部, 准教授 (90554981)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | リース会計 / 使用権モデル / 財務的弾力性 / オペレーティング・リース |
研究実績の概要 |
本研究の目的は使用権モデルの利点たる「財務弾力性」表示を軸に、当該モデルの(1)計算構造の特徴、(2)汎用性ならびに(3)適用にあたり財務弾力性表示の潜在的ニーズの有無を探究する点にある。そして本研究の意義は、リース会計に留まらず「財務弾力性の適正表示」という財務諸表の現代的機能の解明に資する点にある。 そこで交付申請書の記載を前提に一部計画を変更し、3ヶ年計画の初年度にあたる27年度は文献研究に注力した。なぜなら当年度中に相次いたIASB、FASBおよびJICPAの改訂基準化(案)の公表を受けて、最新の動向を本研究に反映する必要性が生じたためである。以下、分野別に文献研究の実績を報告する。 ①リース会計基準化動向:当年度公表のIFRS16とFASBのTopic842の対立点は、現行基準のオペレーティング・リース(OL)に相当する取引のフロー計算にある。OLの範囲には借手に財務弾力性を付与する取引も含まれることから、この対立点を通じて財務弾力性のストック・フロー表示の整合性を検討した。 ②OLの実証研究:①の対立点を受けて、過去のOLに関する実証研究を整理し、特にOLにより財務弾力性の恩恵を受けると想定される企業の特性を検討した。 ③非営利組織会計の財務弾力性概念:当年度公表のJICPA論点整理とFASB公開草案における、統一的非営利組織会計基準の純資産区分の論拠として用いられる財務弾力性概念に注目し、使用権モデルの応用可能性を探った。具体的には、財務弾力性が、純資産(貸方)情報と資産(借方)情報の関連性(カップリング)で表示されるという試論を導いた。これは負債情報の有用性が資産側よりも強調される使用権モデルについて、両建処理の利点として財務弾力性に着目する本研究の方向性と合致する。なお当該分野を研究対象に加えたのは、申請以後も継続的に財務弾力性に係る文献を渉猟した結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要で示した分野別に達成度を確認する。 ①リース会計基準化動向:IFRS16とTopic842の公表が27年度後半であったため、当該公表物も含めた基準化過程の整理が当年度中に完了しなかった。よって、28年度に成果報告を予定している。なお、リース会計基準化に関連する文献研究は、概念フレームワーク、収益認識基準など関連する他基準の動向を踏まえつつ、最終年度まで継続的に実施し、的確な理解と解釈の精緻化に努めなければならないと考える。したがって、3ヶ年計画を通してみれば、初年度である27年度に成果報告まで到達できなかったことは大きな問題ではないと判断している。 ②OLの実証研究:実証研究において、OLの財務的弾力性に着目した先行研究の共通項を整理した。とくに財務負担能力を拡大する手段としてOLを選択する企業固有の財務的制約の分析、ならびに小売業など業種別の分析を検討した。 ③非営利組織会計の財務弾力性概念:JICPA論点整理とFASB公開草案の公表は27年度前半であったため、当該公表物の整理・検討を踏まえた報告を当年度中に行うことができた。また、論文を投稿し、現時点で学会誌に一部修正の上掲載可の判定を受けていることから、一定の成果を達成したと判断している。 なお、上記2と3の研究を通じて、財務弾力性の評価について、負債情報と資産情報の関連性に係る仮説を抽出している。加えて財務弾力性の影響に関して、(借手企業の)業種(非営利組織でいうと法人形態に相当)間の差異が大きいという問題点を見出している。このように、28年度に開始する経験的研究の方向性を定めるにあたり、検討に値する仮説や問題点を導くことに成功したという観点からも、当年度の達成度はおおむね順調と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、研究目的の着実な達成と予算の有効活用を念頭に、当初より弾力的に研究計画を設計している。 「現在までの進捗状況」に記載したとおり、今後も引き続き文献研究を継続する。その上で、27年度の研究成果を検証すべく、28年度からは経験的研究に着手する。 経験的研究としては、交付申請書に記載したとおり、(交付決定額を鑑みて)アンケート調査に代えて、インタビュー調査および事例研究を開始する予定である。とくに非財務データの収集は時間を要することが想定されるため、リサーチデザインを改めて確認した上で、効率的に収集・整理するよう心がける。遅くとも29年度までに事例研究の分析・検討に着手する。また、同時平行的にインタビュー調査を2ヶ年にわたり実施していく予定である。いずれの研究成果も最終年度に報告を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度は、学会・研究会出席のための旅費および国会図書館資料のコピー・郵送のための消耗品費の支出が主であった。次年度使用額は、(当初計画時に初年度予算に含めていた)事例研究の基礎となるデータベース整備に関する予算額に相当する。 「研究実績の概要」に記載したとおり、27年度は、新たな基準化動向を受けて文献研究に注力したことから、データベース整備に係る予算相当額については、28年度の研究に備えて繰り越すこととした。
|
次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」に記載したとおり、28年度に事例研究に着手することを想定している。したがって、次年度使用額については、当該年度において研究計画どおりデータベース整備に充てることを予定している。
|