今年度は、売り手企業を起点とした3社間取引関係に着目し,上流部門と下流部門との関係性が売り手企業の財務業績に及ぼす影響について分析を行った。具体的には,3社間の組織間関係を売り手企業をノード(結節点)としてサプライヤーから資源を調達するといった上流部門における2社間の関係と,その資源を買い手企業に提供するといった下流部門との2社間の関係から構築されているとみなし,上流部門と下流部門それぞれの関係性やパワー構造が売り手企業の財務業績に及ぼす影響について検証を試みた。日本の製造業の財務データを用いて,3社間取引における売り手企業のROA,ROE,売上高営業利益率,売上原価率,販売費及び一般管理費率,CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル),棚卸資産回転率,売上債権回転率,および支払債務回転率について記述統計量の比較を行った。その結果,収益性を表すROA,ROEおよび売上高営業利益率のいずれも主要顧客(買い手企業)を持たない売り手企業のほうが,主要顧客を持つ売り手企業よりも平均値および中央値が高いという結果が得られた。 取引期間の長さが売り手企業の業績に及ぼす影響については,サプライヤー企業との取引期間が長くなるにつれて売り手企業の売上原価率が上昇する傾向がみられ,買い手企業との取引期間についても売り手企業の売上原価率を上昇させるという結果が得られた。本研究は,わが国で初めて3社間取引関係について実証分析を行ったものであり,従来の2社間分析では必ずしも明確にされてこなかった収益性が低いにもかかわらず取引関係を継続する要因について明らかにしたほか,組織間関係における上流部門との関係と下流部門との関係が必ずしも対称ではないことを示すことができた。
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