本年度は,両利き組織におけるマネジメント・コントロール・システム(以下,MCSsと略す)の設計とその利用方法について仮説を設定し,郵送質問票調査を実施した。仮説の設定にあたって,Simons (1995)によって提唱されたインターアクティブなコントロールと診断的なコントロールを,Tessier and Otley (2012)の議論に従い,コントロールの利用方法とコントロールの対象の観点から分離した。コントロールの対象の観点からは,戦略的な業績コントロールと業務的な業績コントロールへの分類を行った。 その上で,探索と活用を同時に追求する両利き組織においては,組織メンバーにいずれか一方のみを志向する組織学習では競争優位を獲得し維持する上で十分ではないことを認識させるためのMCSsの設計が必要とされることを指摘した。このためには,業務的な業績コントロールと戦略的な業績コントロールの双方が強調されることが必要であると考えた。また,組織の両利き志向とMCSsの利用との関係が,環境の不確実性の程度によってモデレートされることを理論的に明らかにした上で,環境の不確実性が高い状況では,戦略的な業績コントロールをめぐるコミュニケーションが有機的に生じるため,トップ・マネジメントは業務的な業績コントロールを例外管理的に利用することで,組織の両利き志向が促進されるとする仮説を設定した。他方,環境の不確実性が低い状況では,戦略的な業績コントロールをめぐるコミュニケーションが積極的には生じないために,トップ・マネジメントは業務的な業績コントロールをインテンシブに利用することで,組織の両利きが促進されるとする仮説を設定した。これらの仮説に基づき,東京証券取引所一部二部に所属する製造企業の事業部長を対象に質問票調査を実施した。現在,その結果を分析している。
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