研究課題/領域番号 |
15K03790
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
青淵 正幸 立教大学, ビジネスデザイン研究科, 准教授 (00290130)
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研究分担者 |
森 久 明治大学, 経営学部, 専任教授 (50130836)
大平 浩二 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20152241)
石井 康彦 高千穂大学, 商学部, 教授 (70305176)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 企業不祥事 / 粉飾決算 / 企業価値の毀損 / 経営哲学 / 第三者委員会報告書 |
研究実績の概要 |
平成27年度は研究初年度であり、基礎研究の期間であった。我々は研究テーマ「企業不祥事による企業価値の研究」のサブタイトルとして掲げた企業不祥事の原因分析および企業価値再構築の分析・評価の研究を進めるにあたり、以下の研究を行った。 まずは、研究対象となる企業不祥事の範囲の限定である。企業不祥事といっても、故意に起こしたものもあれば過失によって発生したものもある。また、過失であったにも関わらずその事実を故意に隠蔽するケースも存在する。そこで我々は、企業不祥事の事例を扱った先行研究をもとに分類作業に着手した。ただし不祥事の区分けは一様ではなく、分類結果は研究2年目、3年目も適宜修正を加えていく必要があることを確認した。 続いて、企業不祥事の原因を検討した。不祥事を引き起こすのは経営者であったり従業員であったりと様々である。しかし、分析を続けた結果、その根底にあるのは内部に流れる企業文化や経営哲学であるのではないかとの結論に至った。その研究事例としてオリンパスと東芝の不祥事を研究の題材に取り上げた。特に、両社が設置した第三者委員会の報告書を確認すると、東芝の報告書では同社にとって具合の悪いものは曖昧にされ、明確に記述されていないことがわかった。不祥事後の企業の取り組みがリ・スタートにも影響を及ぼしているであろうことを確認した。両社以外にも不祥事を起こして第三者委員会を設置し、報告書を開示した企業は少なくない。そこで、研究2年目以降に向けて第三者委員会の報告書データを収集した。 さらに、企業不祥事の発覚による株価の下落とその後の回復についての実証分析を行った。不祥事を起こした上場企業の多くは、その発覚によって株価が約2割ほど下がる。一定期間はそのままの水準で推移する傾向にあるが、その後は回復基調となるか減退が続くかに分かれることを確認した。その理由の探求は研究2年目に引き継がれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は企業不祥事に関する基礎研究を行う年度であった。概ね3カ月に1回の割合で研究会を実施し、研究代表者および研究分担者による研究の進捗状況を確認した。概ね当初予定どおりの成果を上げつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は研究対象をオリンパスと東芝に絞り込んで以下の研究を行う。 第1は両社における企業不祥事の特徴と過程の洗い出しと比較を行う。オリンパスは取引によって生じた損失をとばしと呼ばれる手法にて隠蔽しつづけたものであり、東芝は損失を会計操作によって隠したものである。手法は異なれど、内部告発によって露見したことや、経営者による損失隠しの引き継ぎが行われていたことなどの共通点も見られる。学問として両社がどのように説明されるかを、主に経営者(もしくは企業)の倫理・哲学の側面から研究する。これは主として大平が取り組む。 第2は不祥事隠蔽の兆候を定性データと定量データから分析する。使用するのは有価証券報告書である。有価証券報告書には、企業を取り巻く環境や企業内での動向等が文字情報で示されるとともに、成果が数値情報(会計情報)で示される。不正を働いている以上、その兆候が文字情報にも数値情報にも現れるはずである。文字情報の分析はテキストマイニング手法で、数値情報は経営指標で分析を行う。前者は石井が、後者は森が中心となって研究を進める。 第3は不祥事発覚による企業価値の変化に関する研究である。会計情報を改竄するいわゆる会計不祥事の多くは、実際の業績よりも良く見せようとするために行われる。会計での不正行為が発覚すると、市場は当該企業の価値を正しい(本来の)価値へと導くため、一般には企業価値の代理変数である株価が急落する。イベントスタディ手法を用いて、企業価値(株価)の変化について観察し、比較検討を行う。これは主に青淵が担当する。 以上が平成28年度の研究の方向性であるが、申請時の計画と異なる可能性があるのは欧州への視察である。当初は平成28年度に欧州へ渡航して現地での企業不祥事についてヒアリングや資料収集を計画していたが、昨今の欧州の政情不安を勘案して渡航するか延期かを判断する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は研究初年度ということもあり、研究代表者・研究分担者ともに支出を抑制する傾向にあった。科学研究費補助金の財源は税金であり、無駄な使用をしないことを研究者間で確認したことも影響していると思われる。 人件費に関しては、データ処理の補助として大学院生に作業を委託する予定であったが、データベースの基礎は研究代表者・研究分担者が作成に取り組み、そのまま作業を継続したため発生しなかった。これらが当初の予算計画を下回った原因である。なお、平成27年度の会計処理を締め切ったあとの平成28年3月に旅費や物品の購入を行っており、次年度の支出として計上される。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究は、支出を抑制しながらも概ね順調に進んでいる。平成28年度も無駄な支出はしないという姿勢を保ちながら、補助金を使用していく予定である。 平成28年度は、前年度に引き続いて、収集した資料の分析を行うとともに、その成果を学会で報告する予定である。また、企業不祥事の日欧比較を行うため、現地視察を予定している。平成27年度に未使用となった補助金は、学会出張旅費および海外出張旅費へ加算する予定である。
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