研究課題/領域番号 |
15K03792
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大鹿 智基 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90329160)
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研究分担者 |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 統合報告 / KPI / 非財務情報 / 企業価値 / サステナビリティ |
研究実績の概要 |
本研究は、財務・非財務情報と企業価値の関連性を示し、より長期的な視点からの経営および投資をおこなうことを目指す「統合報告」という新たな財務報告の仕組みが世界的に広まりつつある中で、(1)統合報告の作成者である企業が直面している課題、すなわち、価値創造につながるKPIとして何を選別し、どのように報告すべきか、について理論的・実証的に明らかにすること、そして(2)統合報告の受け手である投資家が、統合報告の開示を開始するという企業のアナウンスに対して、また統合報告書において報告されるKPIの内容に対して、それぞれどのような反応を示すのかを実証的に検証することを目的としている。 研究期間2年度目である平成28年度においては、組織とステークホルダーに対する価値創造を示す財務・非財務を結合させたKPIの探求を目指した実証分析を実施した。大鹿・阪(2013)を発展させ、統合報告が目的とする「持続的な価値創造・向上」の成功者ともいえる長寿企業に焦点をあてた分析をおこない、長寿企業において収益性が高く、かつ安定していること、さらに株主以外のステークホルダー(従業員、政府、債権者)への付加価値分配が多いことを確認した。これらはステークホルダー理論の主張と整合する分析結果である。なお、本分析結果については、Social Responsibility Journalへの投稿をおこない、2回の査読を経て論文掲載が確定している(2016年11月に掲載承認、2017年度中に刊行予定)。 さらに、次なる分析テーマとして、株主以外のステークホルダーのうち政府に着目し、税金の支払状況と企業の持続性(サステナビリティ)の関係を分析することを決定し、平成29年度中の実証分析実施に向けて準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初は、(1)統合報告書の開示宣言と初度開示に関わるイベント・スタディと、統合報告開始前後の資本コストの変化に関する国際的実証分析、および(2)組織とステークホルダーに対する価値創造を示す財務・非財務を結合させたKPIの実証的探求、という2つの実証分析を実施する予定であった。しかし、このうち(1)の分析については、統合報告書の開示宣言と初度開示が資本コストを低下させるという、当初予想されていた分析結果を得るに至っていない。原因としては、分析モデルの問題も考えられるが、統合報告書の開示をおこなう企業数が少ないことにより十分なサンプル数を得られていないこと、および統合報告書の自発開示をしようとする企業の特性として従来より資本コストが低位に推移していること、などが考えられる。いずれにせよ、(1)の分析については当初の計画より進展が遅れていると判断している。 一方、(2)の分析については当初の予定よりも順調に進展していると判断できる。(2)の分析のうち1つ目の分析テーマであった、株主以外のステークホルダーへの付加価値分配が、統合報告が目的とする「持続的な価値創造・向上」の成功者ともいえる長寿企業との関連性を有するという仮説については十分な研究結果が得られている。また、2つ目の分析テーマとして設定した、政府への付加価値分配(税金の支払状況)と企業の持続性(サステナビリティ)の関係性についても、予備的な分析において仮説を支持する結果が観察されている。これらから、(2)の分析については当初の予定よりも順調に進展していると判断している。 以上から、当初の研究進捗状況とは状況が異なるものの、全体としてはおおむね順調に進展しているものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間3年度である平成29年度においても、引き続き(1)統合報告書の開示宣言と初度開示に関わるイベント・スタディと、統合報告開始前後の資本コストの変化に関する国際的実証分析、および(2)組織とステークホルダーに対する価値創造を示す財務・非財務を結合させたKPIの実証的探求、という2つの実証分析を実施する予定である。 まず、(1)については、データの入手、整理、および分析を進めていく。統合報告書を開示する(または開示宣言をする)企業が増加していることから、サンプル数の不足による分析の困難さは徐々に解消すると期待している。また、統合報告書開示という意思決定の要因に関する先行研究も増えていることから、それら先行研究において言及されている企業特性をコントロールすることで、統合報告書の開示宣言等による純粋な効果を抽出できる可能性がある。 また、(2)については、まず、政府への付加価値分配(税金の支払状況)と企業の持続性(サステナビリティ)の関係性について分析をおこなう。分析結果がある程度確定した段階で、ワークショップや学会等での報告をおこない、最終的には論文としての刊行を目指す。本テーマについては、タックス・ヘイブンを利用した国際的租税回避が話題になる中、時宜を得たテーマと言えるため、できるだけ早期の成果発表を目指す。合わせて、その他の非財務情報についても実証分析を進める。現時点では、企業の労働生産性と労働分配率、企業間格差と研究開発費成功確率、などが今後の研究テーマの候補となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者は2016年度に、アメリカ・カリフォルニア州のUniversity of California, Irvine (UCI) に8ヶ月滞在し、当科研研究の協力者でもあるJoanna Ho教授と一緒に研究を進める予定であったが、Ho教授がこの期間の多くを海外で滞在されたために、共同研究を予定したようには進めることができなかったため、研究費用に残額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度には、当研究に対して、データ解析環境構築、および、パネルデータ・時系列データ解析の理論構築とビジュアライゼーションについて、それらの分野を専門する研究者の協力を追加的に得ることができることとなった。そのため、その研究会合のための会合費・旅費、および、それらの研究結果をふまえて、研究成果を国際会議で発表するための旅費等に使用する予定である。
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