研究課題/領域番号 |
15K03795
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
窪田 祐一 南山大学, ビジネス研究科, 教授 (40329595)
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研究分担者 |
三矢 裕 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (00296419)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 管理会計 / イノベーション / テンション / コントロール・パッケージ / インターラクティブ・コントロール / 自律的組織 / 戦略行動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、企業がイノベーション(経済成果をもたらす革新)を実現する過程に焦点をあて、その過程における管理会計の役割を解明することにある。本年度は、イノベーション実現に向けて経営資源を投入する際に必要となる正当化(資源動員の正当化)において、管理会計がどのような役割を果たすのかについて理論的考察を行い、事例研究を通じて仮説の検討を行った。 イノベーションを実現するには、不確実性が高い状況で、経営資源を動員する必要がある。管理会計システムは、経営資源配分の経済的合理性を示すことで、その資源動員の正当化を支援する。管理会計情報には実績だけでなく未来情報が含まれるものの、それらには長期的なものと短期的なものがある。加えて、組織の経済状態などにより、志向するイノベーション(抜本的/漸進的、探索/深化、破壊的/存続的など)のタイプが異なる。先行研究のレビューから、イノベーションのタイプによって必要とされる管理会計情報に違いがあること、また、その利用方法にも違いがあることを確認した。この点は、組織の安定性と創造性のテンションに関わる問題であり、この対処には複数のマネジメント・コントロールを組み合わせることが必要であることが明らかになった。 このように先行研究の成果を整理したのち、事例研究を通じて、以下の二点を観察した。一点目は、戦略的不確実性に対処するインターラクティブ・コントロール・システムが、現場からの漸進的なイノベーションに有効に機能していることである。もう一点は、組織成員の自律的な戦略行動にもとづくイノベーションには、特に理念システムが機能していることである。この2点の観察事実は、複数のマネジメント・コントロールによって、タイプの異なるイノベーション活動が促進・抑制されることを示唆している。この示唆は特定事例によるものであるため、次年度以降も経験的証拠を積み重ねたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は大きく2つある。それは(a)「資源動員の正当化」に対して「管理会計」が果たす役割と(b)「管理会計」と「その他のコントロール手段(組織文化、経営理念など)」による創造性の調整を解明することである。本年度は、先行研究の文献レビューを行い、予備的な事例研究を実施することで、上記の2点を解明するために必要な管理会計の理論の開発と概念の整理を行うことを計画していた。 イノベーション、戦略、あるいはインタンジブルズに関わるマネジメントには、管理会計以外の要素が多く含まれている。そのため、本年度は、広範な領域の文献(戦略、イノベーション、組織行動、組織文化、組織間関係など)をサーベイの対象にして文献レビューを実施した。加えて、継続的に研究方法論(定量的研究方法、定性的研究方法)をフォローアップした。理論モデルの構築には、文献調査だけでなく実務の実態を踏まえる必要があるため、過去に実施した調査をイノベーション実現の観点から再度見直した。 本年度の研究実施により、管理会計におけるアカウンタビリティの概念、組織のテンションの問題、複数のコントロールの組み合わせ(コントロール・パッケージ)に関する理論を確認した。これらは、今後実施する聞き取り調査や質問票調査における仮説設定に欠かせないものであった。 以上のように、これまで研究計画は順調に推移している。ただし、企業が志向するイノベーションのタイプによって、コントロールのモードが異なることが予見される。加えて、組織設計や管理会計システムの設計・運用によって、イノベーションに関わる戦略創発や戦略行動に差を生じさせている可能性について検討することが必要である。そこで、当初の研究計画では想定していなかったが、フラクタル型組織や自律型組織などの組織設計も踏まえて,戦略行動に与える影響を検討しながら、研究を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の前半は、文献レビューと聞き取り調査を継続しながら、郵送質問票調査に向けて質問事項の作成を進めたい。具体的には、構成概念の定義、概念の操作化、測定尺度の開発などを行う。場合によっては、イノベーティブな企業の実務家から、意見や研究上の助言をいただくなどし、理論と実務の乖離をなくすように努力したい。加えて、研究の展開方向の妥当性などを確認するために、国内外の研究協力者との意見交換を適宜行っていきたい。このような取り組みを通じて、理論モデルや送付前の質問票の改善を図る。また、これまでの成果を論文としてとりまとめる。 後半も、研究分担者とともに、文献調査と聞き取り調査を継続する。加えて、質問票調査を実施し、仮説検証・発見のための統計分析を行いたい。ただし、研究方法として、聞き取り調査による方が適切であると判断された場合は、計画を変更することがありうる。質問票調査の実施においては、質問票の完成前にパイロット調査を実施し、回答上の問題がないかを確かめたい。郵送先は東証一部の上場企業を想定している。加えて、質問票の統計分析(共分散構造分析などを想定している)を実施する。質問票調査の分析結果は、ワーキングペーパー化し、最終年度の国内外の学会報告に向けて準備を進めたい。 最終年度は、理論モデルを精緻化し、学術的・実践的な示唆を導出する。また、統計結果を解釈するためにも補足的な聞き取り調査は継続する予定である。最終的な研究成果は、論文にまとめて公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、聞き取り調査ならびに研究打ち合わせを効率的に実施し、その回数を抑えたことによるものである。また、当初予定していた資料整理を研究代表者と研究分担者で実施することで、人件費を使用しなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は、聞き取り調査、質問票調査、ならびに研究打ち合わせなどに充当するとともに、調査に掛かる作業量を軽減することを計画している。それ以外は、当初の予定通りである。
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