本研究は、イノベーション実現過程における管理会計の役割を解明することにある。具体的には、資源動員の正当化における管理会計の役割、そして創造性を調整するコントロール・パッケージ(コントロールの組み合わせ)の実態について解明することを目的としていた。 本年度は、最終年度として、これまでの聞き取り調査からの成果を取り纏めるとともに、前年度から延期していた郵送質問票調査を実施した。これまでの聞き取り調査からは、アメーバ経営のようなミニ・プロフィットセンターが知の活用・探索によるイノベーション(両利き経営)に関連すること、資源動員の正当化に対して理念や会計数字が利用されること、アメーバ経営の導入がビジネス・プロセス・イノベーションを促進する可能性があることを確認している。 これまでの聞き取り調査と直近の欧米の先行研究の調査結果を参考にしながら、郵送質問票の調査デザインを見直し、年度の前半にプレテストを実施した。当初、アイデアの創出段階と得られたアイデアの実現段階ではコントロール・パッケージが異なることを想定していたが、この2段階区分の相違がプレテストでは見いだせなかった。そこで再度、分析モデルと質問項目について検討し、経営環境、組織文化、活用・探索のイノベーション志向、ダイナミック・ケイパビリティ、イノベーション・プロセス、マネジメント・コントロール・システム、企業業績などの関係性について調査することにした。結果、現在のところ、イノベーション・タイプによって、創造性と安定性をバランスさせるコントロール・パッケージが異なることを確認している。
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