研究課題/領域番号 |
15K03800
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
松本 祥尚 関西大学, 会計研究科, 教授 (30219521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 特別目的 / 任意監査 / 証明業務 / 保証業務 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、企業会計審議会が平成26年改訂監査基準において導入した「特別目的の財務情報に対する監査」を中心に、「多様な監査・保証形態が(利害関係者)に与える保証効果への影響に関する国際的・実証的研究」をテーマとして、国際監査基準(ISA)800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」とISA 805「個別の財務表または財務諸表項目等に対する監査」のわが国における実施可能性とそのあり方を明らかにすることを目的にしている。 平成28年度においては、前年度に引き続き、職業会計士が多様な財務情報の監査・保証業務をどのように提供し得るのか、また提供しているのか、について、監査及び証明業務で先行するアメリカを中心に検討した。特に特別目的の財務情報の監査を規定する公開企業会計監視委員会(PCAOB)とアメリカ公認会計士協会(AICPA)による基準のみならず、任意監査・証明業務を規制するAICPAによる実務指針が、どのように実務に適用されているのか、を明らかにするように努めた。 一方、わが国でも当該監査基準に基づき、実際に特別目的の財務情報の監査がどの程度実施されているのか、について実態調査を試みることで、その定着度を測った。この結果、アメリカのように任意監査ないし証明業務のような、20世紀初頭から当事者間で情報の信頼性を保証する専門業務、に対するニーズが存在した国に比して、わが国での任意の監査・証明業務に関する実務が、これら基準化によってもそれほど進展していないことが確認され、今後、実務指針の一層の充実を含めた今後の対応について提言を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 平成28年度の研究成果の一部として、「監査・証明対象の多様化に伴う保証水準の多層性」『会計・監査ジャーナル』第734号(平成28年9月)94~102頁を公表するとともに、わが国の監査・証明業務の現状を示す1つの例として東芝の監査実務を採り挙げ、Corporate Accountability -- Case of Toshiba --として、第14回World Congress of Accounting Historians (Chieti-Pescara, Italy, June 25-27, 2016)において発表した。. 当初の実施計画では、特別目的の財務情報に対する監査・証明業務における4つの構成要素(利用目的、監査・保証対象となる情報、業務手続、必要な確信の程度)が、「適正性」と「準拠性」意見との関連でどのように組み合わされるのかを実態調査を通じて明らかにした上で、各構成要素の組み合わせとその結果としての保証効果について概念的な整理とモデル化を目的としていた。 現在までの進捗状況では、上記論文及び学会発表において構成要素間の概念整理について纏めることができている。また当初予定したドイツの特別目的の財務情報に対する監査・証明業務の内容を完全には終えていないものの、わが国における実態調査の結果は得られており、その分析結果とモデル化については取り纏めつつあるところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度及び28年度に明らかにした国際監査基準(ISA)800と805、アメリカのPCAOB監査基準、ならびにAICPAの監査基準書(SAS)・証明業務基準書(SSAE)・会計及びレビュー業務基準書(SSARS)が規定する監査・保証業務の4つの構成要素とそのあり得る組み合わせを前提に、わが国の実態調査の結果について分析を進め、わが国に特別目的の財務情報に係わる監査・保証業務を定着させるために、どのような組み合わせによるベスト・プラクティスのモデル化が可能かを明らかにする。 またこれらの構成要素(意見形態、利用目的、監査(保証)対象、業務手続)の組み合わせによって得られる保証効果について、職業会計士や企業財務部・同IR部等を被験者として意思決定有用性がどの程度あるのかを実験的に検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度が研究計画最終年度となるため、平成27年度および平成28年度において明らかにした国際監査基準(ISA)800と805、アメリカの公開会社会計監視委員会(PCAOB)とアメリカ公認会計士協会(AICPA)による監査基準・証明業務基準・会計及びレビュー業務基準の修正の有無を確認するとともに、その他、諸外国における財務情報の監査・証明業務に関する基準の有無と内容を追加的かつ補完的に確認するための資料収集が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究最終年度としての平成27年度と平成28年度における研究成果にもとづく最終報告の補完ならびに修正作業を行いつつ、当初の計画に規定したとおり、特別目的の財務情報に対する監査・保証業務をわが国でも定着させるために、必要な構成要素(意見形態、利用目的、監査(保証)対象、業務手続)の最適な組み合わせと、その結果表明される結論が想定利用者に与える保証効果について、最終的な検証を行い報告書を取り纏める予定である。
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