研究課題/領域番号 |
15K03801
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
川原 尚子 近畿大学, 経営学部, 教授 (40511184)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 企業の社会的責任(CSR) / 情報開示 / サスティナビリティ(持続可能性) / 社会環境影響 / インドネシア / 社会環境報告 / 統計分析 / 文献レビュー |
研究実績の概要 |
本年度は当初の研究計画におおむね基づいた結果、「インドネシア企業のCSR情報開示の内容と要因:文献レビューおよび統計分析」および、近時公表予定の「インドネシア企業のCSR活動とCSR情報開示-文献レビュー」の2論文を取りまとめることができた。なお、研究課題名にある社会環境情報の開示とCSR情報開示を2論文では同じ文脈としている。 前者の論文では、インドネシア企業の社会的責任(CSR)情報の開示内容と要因について先行研究をレビューし、統計分析をした上で、さらなる研究課題を検討した。分析対象はインドネシア企業全般、およびインドネシアの資源エネルギー・セクター分野の企業であった。2015年8月時点でグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)のサスティナビリティ・データベースに登録されている、サスティナビリティ・レポーティング・ガイドライン第3.1版に準拠して報告書を発行している会社のCSRレポートを対象とした統計分析を行った。その結果、近年の資源エネルギー・セクターのCSR情報開示のレベル(以下、情報開示レベル)が他セクターより相対的に高いこと、民間企業と国有企業、あるいは多国籍企業とその他企業の間で情報開示レベルに関して特に際が見出されないこと、第三者による適用レベルチェックのGRIセクター・サプリメントの利用率は他のセクターより高い可能性があることが明らかとなった。途上国企業のCSR情報開示に関する研究は欧米のそれに比較してまだ蓄積が少なく、インドネシア研究はさらに限られていた。本研究では、インドネシア企業のCSR情報開示の近年の増加傾向や開示状況を分析しており、これまでにない知見を提供できたと考える。加えてインドネシア企業のCSR情報開示に関する広範な文献レビューもこれまでほとんど見られない研究成果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、インドネシアの企業の社会環境情報(CSR情報)の開示、および関連する会社法を含む企業開示制度の概要と状況を把握できた。また、この分野の先行研究について可能な限り広範で詳細な文献レビューも実施した。国内外の研究協力者の支援も得ることができた。このような概要把握の調査、先行研究のレビュー、研究協力者との議論を通じて、社会環境情報開示の統計分析の事前準備に貴重な洞察が得られた。また現地調査の調査対象、手法、内容に関して様々な検討を行った。 一方、調査協力可能なインドネシア現地の専門機関の選定を検討したが、当初予定していた機関の協力体制があまり十分でないことから、有効な情報入手のための別の方策を柔軟に検討している。また、インドネシア現地の治安状況が、国際的紛争、テロ、IS問題などを背景に、当初予期していたよりも一段と悪化しており、現地へ渡航しての企業への聞き取り調査の実施の安全性に懸念があることをふまえ、引き続き調査対象・手法・内容・範囲などを柔軟に検討していく状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、先導的な情報開示を行う企業の社会環境情報の開示状況の内容の分析を、先行研究のレビューで得た知見をもとに実施していきたい。その際に計画通りエネルギー・資源分野の企業を主な対象としていく。 また、制度関連の開示の変容や特徴的な記載に関して、インドネシア企業にアンケートあるいは聞き取りによる情報を入手することを計画していたが、現地調査の実現可能性、有効性、効率性、経済性を引き続き検討し、調査対象・手法・内容・範囲などについて様々な可能性を考慮し研究を進めていきたい。 加えて、研究目的であるインドネシア企業の社会環境情報開示のシステムやメカニズムの現状を課題を把握するために、社会環境情報、CSR情報、持続可能性情報開示の研究分野の先行研究で議論されてきた開示誘因を説明する理論についても、議論を整理していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、インドネシア現地の専門機関との調査協力について、先方の責任者との交渉に有効な進展が望めず、十分で信頼できる協力体制を容易に得られにくい現地の状況があることが判明し、調査手法を若干変更せざるを得なくなった。インドネシア領土が広いことや首都ジャカルタはじめ現地の交通事情に鑑み、研究代表者が渡航して聞き取り調査を実施した場合の経済性の問題、さらには当初予期していたよりも国際紛争、テロ、IS問題があり、例えば、首都ジャカルタで2016年1月に爆弾テロ事件も起きており、渡航を控えるなど慎重な対応をせざるを得ない状況が伺えた。そこで、適切、実行可能な調査手法での調査実施のためには今年度使用額を次年度と合算していくことが適当であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
現地企業の情報入手などの調査にあたり、現地の専門機関の協力体制、特に時間的管理と報告体制における十分な信頼性を構築しづらい問題が判明したことから、代替的手段として、このような問題の少ない、インドネシア企業調査に比較的精通した日本の調査会社の協力を得ることを検討している。この場合、当年度の使用額の範囲では、現地での人件費や諸経費に加え、日本企業側の管理コストを十分まかないきれず、調査対象、範囲、内容などの面で、調査研究の有効性に影響のある様々な制約が予想され、次年度使用額との合算額の範囲で研究目的の達成に適切な調査を実施していきたい。
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