研究はおおむね順調に進み、最終的に良好な成果を収めることができた。具体的内容として、まず、これまで実施した調査を論文「新興国上場企業の環境、社会、統治情報の開示に関する日本の潜在的投資家の選好:予備的調査」として公表できた。この研究では日本人投資家の意識調査によって新興国上場企業のESG情報開示に関してどのような情報に価値を感じているかを明らかにしている。投資家は非財務情報を重視し、良好なパフォーマンスを示す情報や、統治や環境情報が企業リスクに影響する場合の情報に価値を高く感じ、将来情報よりも過去情報を重視していることを明らかにしている。このような研究はわが国では知る限りないので非常に意義があるといえる。 次に、インドネシアの共同研究者と共著で、国際的学術雑誌であるSocial Responsibility Journalに論文「Japan investment and Indonesia sustainability reporting: an isomorphism perspective」を公表できた。この研究では、日本からインドネシアへの投資とインドネシア企業の持続可能性報告との関係性について制度理論の同型化の過程を用いて検討している。2国間の持続可能性報告に関する法規制を記述しつつ重要な課題を明らかにしている。両国の投資関係のためには持続可能性報告に関する法規制の変更の可能性も吟味し、また両国の法規制が持続可能性の中で重視する側面が異なることを議論し、制度的同型化の過程でこのような報告環境が投資システムへの圧力になりうると論じることで、両国の持続可能性報告の課題を再定義して研究者だけでなく投資アナリストへも実務的示唆を提供している。自主的あるいは強制的報告の相互作用に関する既存の理論を拡大している点でも学術的な意義があるといえる。
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