研究課題/領域番号 |
15K03804
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
杉本 徳栄 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (50206695)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国際財務報告基準(IFRSs) / 会計基準のコンバージェンス / IFRSsアドプション / 政治任用 / 証券取引委員会(SEC) / 国際会計基準審議会(IASB) / 金融庁 / 金融規制 |
研究実績の概要 |
日本の会計・監査に関わる問題が社会的に注目されるときに、自由民主党政務調査会・金融調査会の「企業会計に関する小委員会」が開催され、ある意味で大きな役割を果たしている。「企業会計に関する小委員会」の提言は、自由民主党の政策、ひいては政府の国策などへと結実しているのである。この事実を踏まえて、「企業会計に関する小委員会」による提言などを紐解きながら、政治主導による会計・監査政策とその影響力、とくに「企業会計に関する小委員会」が日本の「国際会計基準に関する我が国の制度上の対応」の審議に資する会計制度の方策について解明した。 また、本年度は、これまで進めてきた研究を踏まえて、近年の会計基準ないし財務報告基準の開発が、会計基準のコンバージェンスと国際財務報告基準(IFRSs)アドプションという2つの基軸のもとで進められてきたことについて、会計は言うに及ばず、外交を含む政治、経済、法律などの全方位から「制度」を捉え、会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプションを余すところなくまとめ上げ、その実像について描き出すことを試みた。 この試みを進めるために、次のような検証・分析を行なった。 (1)国際政治を背景に、国際会計基準審議会(IASB)によるIFRSsの開発と各国の会計基準のコンバージェンスあるいはIFRSsアドプションの取組みとの関わりを基軸に、国内外の膨大な第一次資料をもとに丹念かつ詳細に検証して解き明かすこと (2)「単一で高品質な国際基準」の策定をグローバルな目標に押し上げた世界金融危機と国内外に及ぶ会計基準との結び付きや政策、制度形成に及ぼした影響を緻密に分析すること こうした分析結果は、全1,328ページからなる『国際会計の実像-会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプション』(同文舘出版、2017年)として取りまとめ、出版している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプションという2つの基軸のもとで進められてきた近年の会計基準ないし財務報告基準の開発について、国際政治を交えながら制度の観点から体系的に整理するとともに、その全容を解明してきた。たとえば、SECコミッショナーやSECスタッフによるIFRSsに対する公式見解やスピーチなどをもとに、最近10年間のアメリカにおけるIFRSsへの対応のあり方(IFRSsアドプションに向けた規制措置)についても明らかにしている。これらの研究成果をも取り込んだ著書を、予定通り取りまとめて出版している。 また、IFRS財団・国際会計基準審議会(IASB)のメンバーの公式見解などは、規制当局などとは違って部分的にしか公表されていない。そのため、それらの限られた公式見解などをデータベース化することに加えて、IASBメンバーへの聞き取り調査などを通じて、IFRSsの基準開発への影響力の実態把握に努めた。データベースを補完するものとして活用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ大統領選挙後、証券取引委員会(SEC)委員長の政治任用をはじめ、他のコミッショナーの任命が行なわれていない(2017年5月現在)。そのため、IFRSsの受け入れに関わる規制措置はもとより、金融規制への対応が停滞している。この政治任用のあり方をつぶさに追跡調査するとともに、SECコミッショナーなどの公式見解やスピーチなどに関わるデータベースをより完全なものにし、基準設定における規制当局の役割や政権政党とIFRSsの規制措置のあり方との間の関係についてに検証を進める。 こうした一連の研究から、政治任用の実態とともに、規制措置や会計基準などへの影響という「会計と政治」の実態を浮き彫りにすることができる。 併せて、IFRA財団・IASBメンバーの公式見解などとIFRSs開発との関係や影響力などについても検証を行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は、アメリカへの訪問調査を実施しなかったことによるものである。 2016年11月8日にアメリカ大統領選挙が行なわれ、その選挙結果を踏まえて、政治任用の1つであるアメリカ証券取引委員会(SEC)委員長が新たに就任する予定であった。しかし、SEC委員長候補者がアメリカ議会(上院・下院)において承認されないまま、空席のままである(2017年5月4日に就任決定)。また、本来は5名体制のSECコミッショナーも2名となり、事実上、SECによる規制措置に関わる諸活動は機能していない。新大統領による政治任用が完了し、新たな規制措置の展開がみられるときに訪問調査を実施することが研究上の成果も期待されるため、今年度はアメリカへの訪問調査を実施していない。
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次年度使用額の使用計画 |
データベース構築のプロセスのなかで見出した課題などについて解消するために、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金をもとに、アメリカのSECなどでの訪問調査や、IFRS財団・IASBメンバーの公式見解などのデータベースの構築に向けた調査とそれらによる分析などに充てる計画である。
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