本研究は会計士監査の意義と機能に関する「歴史貫通的な理論」の構築を目的としている。従来、点在していた先行研究の成果を線でつなぐとともに、会計士監査固有の意義と機能についての歴史貫通的な理論を追求することにより、会計士監査の有効性を高める法規制等の方向性を提示することが本研究の目的である。 本研究目的を達成するため、研究初年度の平成27年度より、法規制等により会計士監査が強制されていない市場(自由市場)と強制されている市場(規制市場)を区別し、それぞれの市場における会計士監査の意義と機能について理論的かつ歴史的に検証してきた。より具体的には、本研究では、(1)法規制等で強制されなくても企業の利害関係者(とくに株主と経営者)により会計士監査が要請されたという歴史的事実があること、(2)(1)の会計士監査の要請と規制化のプロセスは新古典派経済学の理論(エージェンシー理論およびゲーム理論)を用いて論証可能であること、(3)会計士監査に関する規制は社会的に影響の大きい会計不正が発覚するたびに新設・改訂されるという歴史を繰り返していること、および(4)自由市場もしくは規制市場のいずれの市場においても会計士監査がその意義と機能を効果的に発揮するには監査人の独立性が必要不可欠であることを明らかにした。 平成29年度が最終年度の予定であったが、当初予定していなかったわが国の監査制度の個別論点(内部統制監査)を追加検証したため、研究成果の一部の公表の時期が平成30年度となった。 なお、追加検証した論点の研究成果は、平成30年度監査研究学会第41回西日本部会の統一論題「内部統制監査制度の功罪―日本公認会計士協会近畿会監査問題特別委員会提言集から―」において発表したうえで、学会誌に公表している。
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