最終年度にあたる本年度は、研究実績の公表に特に大きな進展があった。佐藤俊樹「「データを計量する 社会を推論する」や同「意味と他者」では、マックス・ウェーバーの理解社会学をベイズ統計学の枠組みで再定式化できることを示して、それが行為の意味の推論であることを通じて、理解の不確定性を数理的な定義が可能な形で導入できることを示した。 それによってニクラス・ルーマンのコミュニケーションシステム論の重要な鍵概念であるシステム内複雑性(非決定性)を論理的に一貫した形で再定義することができた。その結果として、従来は形而上学的な思惟か、完全になア・プリオリの命題に依存する部分の大きかった自己産出系の公理系を経験論的に再構築することができたと考えている。 また、そうした枠組みをもちいて、福祉社会、リスク社会といった現代的事象に新たな理論的視座から考察を加えることができた。それによって、自己産出系論をつかった経験的で具体的な社会学的分析の事例を、従来よりもさらに理論的に見通しのよい形で積み重ねていくことができた。 また関連して、「意味と数理」では数理科学的アプローチと社会科学的アプローチのちがいをsyntaxとsemanticsという公理論の枠組みの上で表現することができた。それによってそれぞれの理論のあり方のちがいを明示できた。こうした基礎的な考察はそれぞれの分野の反省的な検討になるだけでなく、今後一層重要になってくると考えられる文理融合的なアプローチを、論理的な破綻なく、かつ生産的に進めていく上でも、大きな支援になるものである。
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