本研究課題では、学歴と職業の関連についての線形関係の検討とそれについての国際比較研究を進めてきた。当該年度は日本の学歴と職業との関連について、非線形的な対応関係に焦点を当て研究を進めてきた。具体的には、1980年代から2000年代までの国勢調査のデータを用いて、対応分析を行い、学歴と職業の関係の変化を検討した。 分析の結果以下の点が明らかになった。まず、性別と学歴による職業分離の構造は長期にあたって安定的だったが、近年では職業分離における学歴の重要性は減退しつつあり、ジェンダーの相対的重要性が増してきている。第二に、日本では学歴を問わずジェンダーによる職業分離が維持されているが、アメリカでは高学歴者においてジェンダーによる職業分離が小さい。 以上の結果の背景には、マニュアル色従事者の学歴上昇と高学歴者が多く就業していた高度資格専門職の相対的な優位性が失われつつあること、さらに管理職などの一部の職業での就業人口の減少が影響しているもののと考えられる。これらのことから、高い学歴は高い職業的地位に結びつくという社会階層論が前提としてきた前提を再考する必要性があることが示唆された。とりわけ、日本を含む東アジア圏では「圧縮された近代」と言われる西洋社会とは異なる近代化を遂げたとすでに指摘されている。こうした日本に特有の近代化の特徴を踏まえた上で、学歴と職業の関連について分析を発展させ、理論的発展に貢献することが今後の研究の課題だと考えられる。
|