本研究は女性が労働に参加しやすい制度が進展するいっぽうで、依然として低出生率が継続し働きかたに変化が少ない日本の現状にあって、家族と労働の関係性のなかに潜む隠れた制度を探るものである。中程度の福祉制度にとどまりながらも比較的高い出生率を維持している英国との比較から、現代日本家族の特徴を理解する目的で研究を遂行した。小学生の子どものいる家族生活を主な分析対象とし、1)日本における生活時間の現状と変化、2)日本における家事様式に影響する言説資料、3)日本および英国における母親へのインタビューデータを収集した。最終年度については、これらのデータをもとに分担者および協力者とディスカッションを重ね、家族のシステムに関する統合された解釈を創出した。 結論として、家族の意味づけは現代においても日英で決定的に異なるという理解に至った。すなわち、英国では「子どもとともに過ごす時間をとること」が「家族でいること」とほぼ同義となっており、夫が不在であるという状態は、家族をするという定義づけに反し成立していない。したがって妻の仕事の状況に関わらず、夫は夕方には帰宅し子どもたちと夕食を囲むことが当然視される。一方、日本では妻の働き方にかかわらず夫の不在は容認され、父が家にいるべきだという強い価値意識は存在しない。 では、日本における家族をすることの意味とはなにか。家を継ぐものとして次世代を立派に養育することである。親たちはそのために金銭や時間の資源を配分し未来に向けて家族生活を営む。子どもを塾や習い事へ参加させることが現在家族とともに過ごす時間より重視される。英国では人種や階層による差を考慮しても、親も自分の個性をいかす選択肢を維持し人を招いて社交し、子どもと過ごす時間を確保する。結果的に、多様な人との対話、自然や文化体験のような西欧近代的教育観で重視される側面を子どもたちが享受しやすい。
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