研究課題/領域番号 |
15K03821
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鹿又 伸夫 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30204598)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 階級・階層・社会移動 / ライフコース / 格差 / 地位達成 / 同類婚 / イベントヒストリー分析 |
研究実績の概要 |
平成28年度は次の2つの研究を進めた。第1は、平成27年度に引き続き、経済的貧富が世代間で再生産される傾向と、本人の学歴、職業の地位達成との関連について研究を進めた。貧富の世代間再生産については、所得弾力性や貧困の世代間連鎖として研究されてきたが、前者は親子とも無職者を除外するもので、後者は成育家庭の経済状態の測定に主観的貧富感を採用するなどの問題があった。これらの問題を解消するために、本人が15歳時の家庭にあった財の所有数で成育家庭の経済水準を測定する方法が、主観的貧富感そして所得弾力性の研究で扱われる親の所得推定値よりも基準関連妥当性が高いことを確認できた。その測定をもちいて、学歴、離学後職業、調査時職業、調査時等価所得を4段階の地位達成とする同時分析を行った結果、(1)地位達成過程は成育家庭の家計水準だけではなく親の学歴や職業の影響も媒介すること、また(2)成育家庭の家計水準が本人の学歴、職業、成人後の家計水準に弱いが持続的に直接的な影響をもたらしていることが確認された。 第二に、未婚から結婚へのイベントと捉えた学歴同類婚傾向の研究を進めた。日本を含む先進諸国では未婚者や事実婚・同棲をする者が増加し、従来の有配偶者だけを対象とした学歴同類婚研究ではその同類婚傾向にセレクションバイアスをもたらしている可能性が高い。このため、未婚から結婚のイベント生起として同類婚傾向を検討した。その結果、(1)大卒の同類婚は量的には増加してきたが同類婚傾向としては従来の研究で指摘されてきたほど強くなかったこと、(2)学歴同類婚傾向は、出生コーホートや他のマクロ要因(経済成長率、失業率、高校進学率、高等教育進学率、女性雇用者率)との関連する変化はみられず安定していたことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
貧富の世代間再生産と地位達成過程の関連についての研究は、現在、審査付き学術専門誌に投稿中である。またこの研究から派生した、成育家庭の経済水準を財の所有数から測定する方法の妥当性と有効性に関しては、平成27年度に学術雑誌に掲載した。 また平成28年度は、貧富の世代間再生産と地位達成過程の関連についての研究そして結婚の生起イベントからみた学歴同類婚の研究について、3件の学会報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
結婚イベントとしてとらえた学歴同類婚の研究については、今年度に審査付き学術専門誌への投稿を予定している。 また今年度の研究課題として、成人期の家計水準の格差をもたらすメカニズムを取りあげる。成人期の家計水準については、成育家庭の経済水準および地位達成過程との関連をすでに検討した。しかし、成人期の家計水準は他の家族員とくに配偶者の学歴、職業、所得にも左右される。今年度は、この点についてさらに検討を進め、結果的な格差として成人後の家計水準に結びつく本人の地位達成や結婚・配偶者・家族の影響としてまとめる計画である。
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