ライフコースの中で格差が発生するメカニズムについて、親世代の経済格差の影響、職業移動、学歴同類婚の3点から検討した。 第1の成果は、親世代の経済(家計)水準が子ども世代の経済水準におよぼす影響が、本人の地位達成を通した間接的なものであることを確証したことである。親の家計水準は、親の学歴と職業とともに本人の教育達成にそれぞれほぼ同等の影響力をもつが、その後は本人の学歴が離学時の職業に、離学時の職業が現職に、現職が世帯(等価)所得に影響する連鎖的関係が主要であった。この影響関係について貧困に到達するつながりとしてみると、男性では明確な影響関係がみられたが、女性では不明確だった。こうした知見から、所得弾力性の研究が親の経済水準の影響を過度に強調するものだと指摘できる。 第2の成果は、男性の階層移動について、上層ホワイトカラーの世代間固定化(世代間再生産)が進んでいない一方で、非正規雇用と無職に到達する周辺化が進んだことを検証したことである。既存研究には上層ホワイトカラーの継承傾向が高まったとする指摘があるが、離散時間多項ロジット分析によって、その傾向増大は否定された。他方で低学歴(中学卒・高校卒)の場合に、とくに1990年代後半以後に、離学時および若年段階の職歴で非正規雇用や無職になる確率が急増する周辺化が起きていた。 第3の成果は、本人の階層移動よりも強い階層的な結びつきがあるとされる学歴同類婚の傾向が既存研究の指摘ほど強くなく、また安定的だったことを明らかにしたことである。イベントヒストリー分析による学歴同類婚傾向は、出生コーホートや他のマクロ要因(経済成長率、失業率、高校進学率、高等教育進学率、女性雇用者率)とほとんど関連せず、変化がみられなかった。 これらから、格差を拡大させた主要なメカニズムの変化は、低学歴層の世代内移動の変化だったと指摘できる。
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