日独の社会学説関連研究者間の知的交流の実態を、日独各地の公文書館・図書館における資料調査によって解明した。とくに、カール・ラートゲン、フェルディナント・テンニース、マックス・ヴェーバー、カール・レーヴィットとその周辺の日本人研究者に関する新知見を得た。なかでも、上西半三郎(ジャーナリスト・社会学者)がテンニースに書き送った書簡群は、第一次世界大戦前後の日独関係を反映した良質の第一次史料であることが判明した。またレーヴィットの書簡群を判読・分析し、彼がヴェーバーの学問論をいかに摂取したかを解明することができた。 ハンブルク州立公文書館他において、ラートゲンの事績に関する資料を閲覧・判読した。また、国立国会図書館憲政資料室において、阪谷芳郎が筆記したラートゲンの行政学・政治学講義録の分析を進め、そこから、1880年代における独英仏の社会学説比較の視座を整理した。そして、ラートゲンは、日本の学生たちに、歴史的視座において近代社会の特質を把握すべきこと、歴史的条件の異なる社会においては異なる発展が不可避であることをつねに強調していたことが確認できた。 一方、ラートゲンやヴェーバーの立論は、すでにドイツにおいてレーヴィットらによって換骨奪胎されており、また日本人研究者によっても著しく改変されたかたちで紹介されており、そのため、今日に至るまで、ラートゲンやヴェーバーの理解が大きく妨げられていることを確認した。 こうした調査研究成果を踏まえて、日独における社会科学の継受に係わって、日本におけるヴェーバー受容の問題性に焦点を当てた論稿を、佛教大学『社会学論集』に連載中である。また、ヴェーバーの理論形成にかかわる新史料に依拠して、『佛大社会学』にも寄稿した。日独社会学史に関連する他の新知見については、順次発表の機会を設ける予定である。
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