研究課題
本研究の目的は、放射能汚染など社会的な不安やリスクの高い東日本大震災後の福島で生活する在日コリアンと日本人の家族および「ダブル」の子どもたち、また福島から避難した同様の人びとへの参与観察および聞き取り調査を実施し、困難な状況における日常生活や身近な人間関係を通じた共生の実践的な領域を明らかにすることにある。その際、彼/彼女らの共生の実践の戦術的側面を明らかにするとともに、混淆化する帰属意識の変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。平成28年度は、平成27年度に引き続き、スノーボール・サンプリング法をベースとして、福島県内在住(郡山、いわき、会津)の在日コリアンとその家族に対する参与観察と聞き取り調査を実施した。福島県在住の朝鮮学校出身者を中心とした福島の朝鮮学校コミュニティを対象として、彼/彼女らのコミュニティ活動を参与観察するとともに、聞き取り調査を実施した。これらの調査の成果やその背景にあるグローバル化時代をとりまく在日コリアンをめぐる諸問題について、複数の論考【『at プラス』28号(太田出版)、Multiculturalism in East Asia(Rowman & Littlefiled、共著)、『交錯する多文化社会』(ナカニシヤ出版)、『排除と差別の社会学』(有斐閣)、『社会的分断を越境する』(青弓社)等】において執筆し、本研究の成果の発信と一般社会への還元を試みた。
3: やや遅れている
関東や関西の都市圏およびその周辺と比較するならば、福島における在日コリアンの人口は圧倒的に少ない。ただし、福島県郡山市には福島朝鮮初中級学校が存在し、そこに通う在日コリアンおよびその家族、また卒業生のネットワークが存在しており、福島県におけるもっとも強固な在日コリアンコミュニティであるといえる。本年度も昨年度に引き続き、郡山を中心とした朝鮮学校コミュニティ関係者への聞き取りおよびイベント等へ参加した。ただし、教育および学内の仕事に時間を費やさざるを得ず、聞き取り調査の実施が思ったように進まなかった。
今後の課題としては、すでにコンタクトを取っている民団に関係する在日コリアンの聞き取り調査および参与観察を実施することによって、福島における在日コリアンコミュニティの重層的な部分や、日本人との関係性を明らかにしたい。また、教育および学内の仕事とのバランスを取りながら、調査計画を立て、進めていきたい。フィールドワークの時間が限定されてくることが予想されるため、スカイプや電子メールを通じて聞き取り調査を補完することによって効率的に調査を進めるために工夫していく。
今年度は、参与観察および聞き取り調査を予定していた、原発災害により福島県外へと非難した在日コリアンおよびその家族に対する調査を実施しなかったため、その分の予算が余った。また、教育および学務により、遠方でのフィールドワークや聞き取り調査を実施する時間が限られてしまった。
2017年度内に福島県外へと非難した在日コリアンおよびその家族とコンタクトを取るとともに、聞き取り調査を実施する際の旅費として用いる。また、郡山市・会津市・いわき市で実施する聞き取り調査において必要となる諸経費に用いる。
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atプラス
巻: 28 ページ: 92-111
http://kojingyoseki.adb.fukushima-u.ac.jp/top/details/277