本研究の目的は、東日本大震災以降の福島における放射能汚染をめぐる不安といった困難な状況やリスクに向き合うなかで、「非集住的環境」で生活する在日コリアンが、いかに日常生活や身近な人間関係を通じて共生の実践=多文化的実践を遂行しているのかを明らかにすることであった。具体的には、郡山市、福島市、いわき市などの福島県の主要都市および、他所へ避難した在日コリアンたちの参与観察および聞き取り調査を実施した。とりわけ、日本人と結婚した在日コリアンおよび「ダブル」の子どもたち、またその家族・親族や地域社会における関係性とそれに伴う帰属意識の混淆性に焦点を当てることにより、既存の研究では不可視化されてきた多文化的実践を通じた共生のあり方を明らかにすることを目的とした。最終年度においては、福島の朝鮮学校出身者およびその家族によって形成されている朝鮮学校コミュニティへの参与観察および聞き取り調査を継続して実施するとともに、その成果を日本語および英語の編著二冊にまとめることにより国内外へと発信した。研究期間全体を通じては、在日コリアンと日本人によって構成される家族における震災や放射能汚染という困難に対応する中で多文化的実践を営んでいることが明らかになった。とりわけ、震災以前と震災以降の断絶を強調するのではなく、歴史社会的背景といった連続性の中で彼/彼女らの実践や課題、アイデンティティの問題を検討することが必要であることが明らかとなった。
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