今日、精神疾患の診療において、不適切な薬物療法を減らすことが課題となっている。この課題に資するような診療コミュニケーションのあり方を探るため、本研究では、医師が患者の訴える苦悩の経験についてどのように情報収集をしているのか、またそのやり方によって後続する処置決定などの相互行為がどのように形づくられるのかを探究した。診療においてはしばしば、治療にもかかわらず持続する症状を患者が訴えることがある。こうした訴えがなされたとき、医師はしばしば、現在の処置を変更せずにそのまま続けるという結論に向けて、相互行為を誘導する。この誘導過程は、典型的には4つの手続きを順に用いることで行われていく。第一は、完了した訴えに対して患者がさらに何かをつけ加える機会を設けることである。これは、実質的な反応を差し控えることによって、あるいは、訴えから焦点を逸らす質問を発することによってなされる。第二は、患者の訴える症状を、その重大さを割り引いた形で描写し直すことである。これは症状を普通のこととして特徴づけたり、患者の状態の中の明るい面を強調したりすることによって行われる。第三は、患者の訴える症状の意味を反転させ、それを全般的な状態の改善の一環として位置づけることである。第四は、全般的な状態の改善を、現在の処置によってもたらされた効果として説明することである。この一連の手続きは、臨床的には両義的な意味を持つと言える。一方でそれは、患者が問題の性質を捉え損ねているとき、より的確な理解に達することを援助する精神療法の一環として位置づけられるならば、不適切な薬物の増加を避けるための一方法になりうる。だが他方、それは患者の訴えから医師が耳を背けるための一方法として用いられる可能性もある。この場合、それはかえって不適切な薬物療法を拡大することにつながる可能性もある。
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