産業遺産を活用した地域再生について、日本・フランス・イギリスの旧産炭地を対象として調査研究を行った。日本では九州の三池炭鉱を中心的な事例として現地調査を継続的に行い、炭鉱をめぐる集合的記憶の多様性、文化的価値の創出による地域の資源化、それらの資源活用をつうじて進められる地域再生などについて研究した。その成果は関西社会学会(2017年度)や西日本社会学会(2018年度)の学会シンポジウムや研究会などで報告するとともに、論文を数本執筆した。また、その成果について新聞など各種メディアや市民向けシンポジウムなどで公開した。 フランスではノール・パ・ド・カレー炭鉱、イギリスではアイアンブリッジやロンダ炭鉱、ウェークフィールド国立炭鉱博物館を事例とし、同じく産業遺産を活用した地域再生について調査研究を行った。その結果明らかになったことは、脱工業化やグローバル化などの社会変動によって衰退した地方工業都市が、産業遺産を文化資源として活用することにより再生を試みる点で、三国の事例はいずれも共通しているものの、都市の衰退の実態や炭鉱をめぐって形成される集合的記憶、遺産化・資源化の過程などに異なる面があるということである。この違いは相対的なものであるが、中央と地方の格差や地方都市の窮状などの点において、さらにさまざまな違いをもたらしている可能性があり、グローバル化が進行するなかで変容する中央と地方の関係や地方都市の再生戦略などについて、さらに詳細に比較研究することが今後の研究課題となる。
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