研究課題/領域番号 |
15K03848
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
小野寺 理佳 名寄市立大学, 保健福祉学部, 教授 (80185660)
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研究分担者 |
梶井 祥子 札幌大谷大学, 社会学部, 教授 (90369249)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 世代間関係 / 祖父母 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「未成年の子ども(孫世代)のいる夫婦(子世代)の離婚や再婚」による家族関係の変化に関わって、祖父母世代が多世代を繋ぐ働き(多世代の紐帯)を果たすことにより、子世代・孫世代への支援となり得ることを明らかにすることである。平成28年度は、『スウェーデンにおける「多世代の紐帯」としての祖父母世代に関する実証的研究』の1年目であった。本調査は、わが国の世代間関係の特徴と課題を抽出する際に参照される知見を得ることを目的としたものであった。当初、28年度はストックホルム市のみにおける調査を予定していたが、現地の関係各所との交渉・調整の結果、ストックホルム市とエステルスンド市両地域において調査を実施することとなった。調査内容についても、学校調査は機会を改めることとし、家族福祉および地域福祉に関わる公的機関のヒアリングと祖父母世代対象の聴き取りを集中的におこなうこととした。調査対象者の条件は「孫をもつ子世代の離婚や再婚を経験した祖父母世代」とし、調査対象者を探すにあたっては、現地の研究協力者による紹介を経て依頼をおこなった。聴き取りの結果、祖父母世代は、孫をもつ子世代の離婚・再婚を、孫のネットワークが拡がり、孫にとっての資源が増える契機として前向きにとらえようとしており、そのためにミーティング・ポイント、つまり、多世代の人々を結びつける出会いの場としての務めを果たそうとしていることが明らかになった。祖父母世代、孫をもつ子世代は、互いに生活上の自立を果たしたところで対等な関係を育てており、祖父母は子世代の人生には干渉せず、その人生の選択の結果を受けとめたうえで、孫の幸福のために役割を果たそうとしていた。その基盤には、自立を可能にする家族福祉サービスの充実と世代間コミュニケーションへの絶えざる努力があった。つまり、「自立を基盤とする多世代の紐帯」であることが示されたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、未成年の子どものいる夫婦の離婚や再婚に関わって、「多世代の紐帯」としての祖父母の働きが、どのような状況において、どのように実現されているのか(いないのか)、実現され得るのかを詳細にとらえることを課題としている。この課題を明らかにするためには、祖父母世代の様々な条件や生活環境の違いに即した分析をすることが重要である。本年度のスウェーデン調査では、祖父母世代への聴き取り、コミューンの家族支援を担う部署のスタッフへのヒアリングをおこなうことにより、家族、子ども、高齢者に関わっていかなる施策がなされ、現場を知る職員の目から見てその効果はどうであったのか、何が課題であると認識されているのか、祖父母世代は現代社会における家族の在り方をどのように受けとめ、自身の立ち位置をどのようなものと考えているのか、などを探り、「多世代の紐帯」としての祖父母の姿をとらえることを試みた。その結果、「福祉サービスの充実があるから自立でき、自立があるからこそ、家族関係を選好的に築くことができる」という対象者の言葉が示すように、祖父母世代が、自立を基盤として、ミーティング・ポイントとしての多世代の紐帯の務めを果たしていることが明らかになった。しかし、同時に、祖父母世代が自身の生活史と比較して現代社会における結婚や家族について語るとき、家族主義的なメンタリティやそうした家族の在り方への郷愁の言葉も聞かれ、その点においては、日本の祖父母世代と共通するところも認められた。このように、多世代の紐帯としての務めは、家族に関わる認識の違いや葛藤を含みながら営まれていた。今後の課題は、引き続き祖父母世代、さらには他の世代への聴き取りを重ね、さらに、高齢者施設等で生活する祖父母世代に関して、そうした施設において営まれる世代間関係についても注目していくことである。本年度の調査によってその基盤が概ね得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、『スウェーデンにおける「多世代の紐帯」としての祖父母世代に関する実証的研究』の2年目であり、28年度と同じく、ストックホルム市とエステルスンド市両地域での調査を計画している。ストックホルム市とエステルスンド市の2地域で調査を実施するのは、大都市圏と地方都市との比較検討をおこなうためである。28年度調査で残された課題や28年度調査から得られた知見をもとに、3つの調査を計画している。1つ目は、28年度におこなった祖父母世代への聴き取りを続けることである。2つ目は、祖父母世代だけではなく、孫の親世代や成長した孫世代を対象とする聴き取り調査をおこなうことである。これは、祖父母世代のミーティング・ポイントとしての働きについて世代間の認識の違いを明らかにするためである。親の離婚や再婚を経験した孫のために祖父母世代には何ができるのか、また、孫は実際にそこで何を受け取ることができたのか、そして、その間にある子世代はそこにどう関わってきたのか、この3者の関わり方をさらに深く探る。3つ目は、自宅ではなく高齢者施設等で生活する祖父母世代に関して、世代間交流の調査をおこなうことである。この場合は、祖父母世代本人に加えて、施設職員やそこを訪れている子・孫世代への聴き取りが必要となると思われる。 祖父母含めての多世代関係という視点から子どもの養育環境を見直すことは、親の離婚や再婚を経験する子どもが増えるなかで、そうした子どものために必要な支援とは何かという問いへの答えを導き出すことに貢献しうる。これまでのように、親権を得た側の祖父母が孫のために支援を提供し親密な関係を享受するということだけではなく、これからは、子の最善の利益という視点から、祖父母として、孫の地位にある子どもたちのために何ができるのかを考えることが必要となってくると思われる。そのための示唆を得たいと考える。
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