研究期間全体を通して「医療における市民協働とシティズンシップ」について、がん患者会の活動、地域医療・福祉における住民との連携といった事例を中心に、東北地域数か所の対象地における聞き取り、視察を通して検討してきた。高齢者医療においても、がん治療のような高度医療においても、かつてのパターナリズムは変化しつつあり、情報や意見交換の場づくり、「ナラティヴ」の視点を入れたクライアントと専門職の良好な関係形成、また「聞き書き」活動を通じた医療福祉の場の活性化といった事例を通して医療に関与する市民の形成=シティズンシップがそれなりに実現してきていることが確認できた。そこには「ケアリング」の視点に基づく「生活モデル」の重視という医療・福祉のあり方の変化が表れており、こうした変化は、地域包括システムの形成にもプラスに働いていることが本研究を通じて明らかにされた。 計画年度内にそれらについて、①がん患者会の活動、②地域医療におけるナラティヴの意義、③ケアリングに基盤を置いた「ケア社会」の可能性、④①~③の総括と課題としての「感情労働問題」という主題で4本の論文にまとめた。 延長期間である最終年は、これらの論文で十分検討できなかった部分の再検討と調査対象者・地のその後の変化の把握に努めた。これに関連して、地域を超えて発展している「ナラティヴ」と「聞き書き」の活動の調査の補完として「介護民俗学」の視点でケアを考えるワークショップに参加し、これまでの知見を深めた。上記に示した知見の整理と研究成果の振り返りを行い、コメントを加えて報告書にまとめ、これを2019年10月に発行した。
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