この研究は、東日本大震災の津波被害に直面した都市のなかから地域性の異なる二つの都市(岩手県釜石市と宮城県多賀城市)を主な調査対象地に選び、復興まちづくりに関わる計画・施策の比較、 都市の再建プロセスの実態を把握することを目的としている。平成30年度は、特に釜石市と隣接する被災した自治体の視察を行うとともに、復興まちづくりに関する資料の収集を行った。 2018年度に定期観察を行ったのは、釜石市、大槌町、山田町、大船渡市の4市町村(岩手県沿岸部)である。震災発生からまる8年が経過したが、いずれの自治体もハード面の整備がいまだに進行中であり、数ヶ月おきの訪問でも景観が変わり、震災前の街の雰囲気とは大きく異なるので、その過程を記録した。釜石市については、2019年ラグビーワールドカップ開催地の1つである鵜住居スタジアムを中心に空間変容を観察、さらに市中心部の新・旧商店街での買い物客の流れを観察、商店主への聞き取りなどを実施した。 当該地域において2018年度が1つの大きな転機となりうるのは、公共的な交通機関の整備が大きく進んだことである。2019年3月には、三陸鉄道リアス線が開業、高速自動車道(三陸道)の大部分が通行可能となった。今後のまちづくりにどのような影響を与えていくのか、今後も注目していく。 当該市町では、津波被害の伝承や市民の交流促進をめざすまちづくりの拠点施設の建設も相次いだ。年度の後半では、このような復興拠点施設の概要や、まちづくりの方針、生活再建の施策等について、報告書(観察記録)をまとめた。 震災発生から8年が経過し、各自治体の復興まちづくりの方針が空間的にあらわになっている。観察した自治体のなかには長時間の経過で計画当初の目論見がはずれ、再建された中心部に居住者が戻らず、人口減少・人口流出が顕著なケースがみられる。
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