研究課題
新型コロナウイルスによる海外渡航制限から前年度東マレーシアでの現地調査ができなかったため期間を1年間延長した本研究は、調査済みの半島マレーシアと東マレーシアを比較し日本の互助慣行との差異を明らかにすることを目的とした。しかし引き続き渡航制限のため互助関連の文献を精読しつつ、現地調査に代わるオンラインによるインタビュー調査をサバ州とサラワク州で2020年11月と12月に行った。その方法は国内の感染防止のためサバ州に行くことが難しい同州出身者がクアラルンプールからイラヌン族の村民とビデオ通信で話し、スマートフォンの画面上の相手を日本とZoomでつないだノートパソコンに写して行った。ビデオ通信も利用できないほど通信環境が悪い所では音声のみで調査した。サラワク州では現地通訳者がマレー人村落に行き、同様に日本とオンラインで村民への聞き取りを実施した。マレー人村落は半島マレーシアと変わらないが、イラヌン族はマレー文化を受容しているものの、ゴトン・ロヨンに対してミタバン・タバン(mitabang tabang)という相互扶助の言葉を使い,ザリウア(zaliuwa)という労力交換の慣行があった。これは米を作るときだけ手助けするという互酬性の義務を示す言葉でもある。またタタバンア(tatabanga)という共同作業で使う言葉はその場にいることが大切で、地域住民の一体感が重視されている。サバ州のイラヌン族では地元のNGOによる共助が多いのに対して、サラワク州のマレー人村落では村落開発安全委員会など政府系の公助が見られ地域住民のつながりや絆は必ずしも強いとは言えない。この点マレー人のナショナル・アイデンティティに対してイラヌン族はエスニック・アイデンティティの共助が強い。調査した東マレーシアは共有地はなく共同作業も多くない点で、その互助ネットワークは日本の集団主義ほど強くはないと言えよう。
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International Journal of Asian Studies (Cambridge University Press)
巻: Volume 18 part 1 ページ: 1-17
10.1017/S1479591421000036[Opens in a new window]
社会学部論叢(流通経済大学)
巻: 第31巻第1号 ページ: 17-33