本研究で呼ぶ地域史誌(沖縄県では字誌、兵庫県姫路市香寺町では大字誌と呼ばれ、一般には郷土史とか地域史と研究名で呼ばれる)について、本年度は北海道網走市・美幌町、長野県上伊那・下伊那地方、兵庫県姫路市香寺町、沖縄県北中城村などをフィールドにして調査した。これらの諸地域は、従来地域史誌が盛んにつくられていたり現に編集過程であるところ、かつてつくられた地域史誌をばねにして地域の記憶を書き残す会を継続しているところ、地元の人たちが参加する郷土史団体が中心になって地域史に携わっているところなどさまざまであるが、いずれも地域史誌の編纂が当該地域社会の歴史意識を考えていく下地になっている地区であった。 これらの諸地域で見られることを総括していえば、次のように指摘することが出来る。 まず、言うまでもなく地域社会としての歴史を残すことである。それは北海道の地区に典型的に見られるように地域に生きて来た人びとの記録である。したがってそこでは、「開基」何十周年記念として定期的につくられてきた。そしてそれは、当然のことながら地域社会のアイデンティティ、地域共同体の再生という目的を含むものである。兵庫県旧香寺町の活動がその典型といえよう。他方で、それは各個人を没個性にした客観的な歴史記述にはならない。なぜなら当該地域で生きて来た人びとの経験と思いを記録として残すことだからであり、長野県での活動にそれを見ることが出来る。重要なことはこれらの諸活動が専門家ではない一般の人たちによるものである点で、そのため彼らは自分たちで試行錯誤しながら地域史誌編纂を行なっている。沖縄県での字誌編纂に最も典型的にこの点を見ることが出来よう。 また本年度は、こうした活動が地域社会における内発的発展にもつながっていく点から内発的発展についての理論的検討にも力を注いで成果を挙げたことを附記しておきたい。
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