本年度は、研究の最終年度として①インドネシア・バリ島タバナン県の棚田農村②山形県酒田市の平場農村③宮城県塩釜市のシマ漁村での調査研究の成果を集約した。その結果は以下のとおりである。 ①-1世界遺産の登録から5年が経ち、入場料収入だけでなく有機肥料等の行政の助成への依存が高まった。①-2 農業と環境および農業と観光との軋轢が緩和し、両者の両立が模索されていた。①-3育苗や野菜作をする意欲的な農民は、温度管理のためのビニルを利用するので、農業と環境との矛盾が続いていた。①-4あらたな調査対象は、ヒンズー教のメンバーとムスリムのメンバーが共存するジュンブラナ県のスバックである。①-5このスバックは、人数はムスリムが多いが、水田面積はヒンズーが大きい。このことは、ムスリムが男女分割相続であるのに対し、ヒンズーは男子分割相続という相続慣行と関わる。①-6このスバックの組織機構やルール、稲作作業の時期の決め方や共同の行事について調査を進め、異なる宗教のメンバーがひとつの機構のなかで共存する条件を探ることが今後の課題である。 ②-1山形県酒田市では、専業農家は水田単作地帯よりも砂丘畑や近郊農村や畑作複合経営地帯の農家が多い。②-2水田稲作については、個別の大規模経営農家と集落営農法人という2つの経営形態がある。②-3いずれの経営形態も、行政の補助金に大きく依存しており、複雑な補助金申請のための事務能力が要請されていた。 ③-1塩釜市浦戸支所のノリ養殖は、震災前の個別経営から、震災後(2012年)は「がんばる養殖業」を利用して、網の管理やノリ摘みの海上作業から陸上での乾燥・加工作業のすべてを協業化する完全協業に移行した。③-2支援が終わった2015年以降も、合同法人として完全協業を継続しただけでなく、個別経営から会社経営組織に変わり、ノリ養殖の漁業組織は震災前後で質的に大きく変化した。
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