研究課題/領域番号 |
15K03872
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
澁谷 望 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (30277800)
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研究分担者 |
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (70466910)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | サブシステンス / 社会運動 / アウトノミア / アナーキズム / コモンズ |
研究実績の概要 |
本研究は、1990 年代から世界の大都市に広がっているアウトノミア系アナーキズム運動の文化実践的、サブシステンス的、情動的側面を解明することを通じて、現代社会におけるアウトノミア系アナーキズム運動の実践可能性の諸条件と、これを通じて資本主義社会へのオルタナティヴの諸原理を明らかにすることを目的にする。 今年度は引き続き、(1)運動の文化・情動的側面について、ラディカル・デモクラシーとアウトノミア系運動の共通点についての研究、(2)アウトノミア系フェミニスト、シルヴィア・フェデリーチの議論を通じて、女性によるコモンズの創出の実践とそれに対する反動的実践についての歴史的・理論的研究を行った。(1)に関しては、ラディカル・デモクラシーの解体の兆候としてメランコリーを位置づけ、民主主義的連帯と情動の関係を明らかにするとともに、ハートとネグリらの情動労働論を参照し、都市コンヴィヴィアリティの生産の帰属/所有をめぐる人的資本論(新自由主義)とコモンズ論のせめぎ合いの諸相を明らかにした。(2)に関しては、フェデリーチの議論を70年代の「家事労働に賃金を」運動にまでさかのぼり、その意義を再検討するとともに、オルタナティヴなケアの可能性を彼女の現代的なコモンズ論に見出した。また、N.クラインの近著(『これがすべてを変える』)におけるエコロジー的問題提起を「コモンズの取り戻し」のエコフェミニズム的展開として位置づけ、その可能性を検討した。 調査研究としては、沖縄高江の反軍事基地運動の研究者および支持者にインタビューを行い、その運動がいかにフェミニズム的実践によって支えられたか、そしてそこにオルタナティヴなケア実践、ないしアナキズム的「ケアの倫理」が見出されることを確認した。またJ.スコットの「ゾミア」の議論を参照し、日本の山岳信仰におけるアナキズム的伝統の系譜についてのフィールド調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的には、都市の運動における情動的な側面をさらに掘り下げ、運動に見出されるオルタナティヴなケアの側面を指摘するなど順調に進んでいる。また、フィールド調査としては、今年度は、予定された海外の都市における運動ネットワーク調査はなかったが、その代わりに、高江の運動の聞き取り調査が進み、総じて、おおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であり、年度前半はフォローアップ調査、年度後半は主に研究の総括を行う。 理論的研究として、保守的なコモンズ解釈との、コモンズの記憶をめぐるせめぎ合いに焦点を合わせる。アンジェリスおよびフェデリーチのコモンズ/サブシステンスの維持・創出に関する議論を参照することにより明らかになったのは、都市コモンズの実践が一方で、資本および国家の支配からの自律性を獲得する方向で組織化されうるとともに、他方で、資本および国家の活動の下支えをすることもあるという点である。したがって、都市コモンズの両義性を把握するとともに、両者の性質を画するメルクマールを、文化実践、とりわけ、その情動的な側面に焦点を合わせて析出し、研究の総括を行う。その際、アンジェリス、フェデリーチらアウトノミア系マルクシズム/フェミニズムの議論に加え、ラディカル・デモクラシーとケア倫理フェミニズムを媒介に都市コモンズの文化的・情動的側面にアプローチする。 これらの理論的研究は、オーストラリア、台湾、マレーシア、日本における運動のネットワークのケース・スタディーと付き合わせることによって、さまざまな知見が加えられ複合的なものになったが、とりわけ重要な知見は、どこの都市の運動においてもフェミニズム的な視座が重視されていることである。今年度は、この点を中心にケーススタディーのフォローアップを行う。 年度の最後(2月)に、海外の研究者およびケーススタディーのアクティヴィスト当事者を交えたワークショップ/シンポジウムを開催し、成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初12月に予定していたマレーシア現地調査が都合により実施されず、かわりに翌年予定の沖縄高江の関係者への聞き取り調査を実施したため、差額分が余った。また、予定していた資料整理の研究補助が年度前半が都合がつかず、年度後半にずれ込んだため、前期予定分の支出が余った。当該年度に実施されなかったこれらの調査と作業は、翌年度度に実施しする予定である。
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