2017年度は、本研究課題の最終年度にあたるので、主たる調査対象地のうち福島県いわき市、岩手県大槌町に焦点を据えて、(1)これまで収集したデータソース等に基づいた各対象地域に関する情報収集・整理を行い、それぞれの地域特性、土地利用の歴史、被害の特徴等、震災前後の状況の推移を時系列で把握できるようにした。そして(2)町内会長や公民館長等、すでに信頼関係を構築している地域のリーダーへの現地補足調査を行い、震災前後の地域活動の実態について追加ヒアリングを実施した。そのうえで、(3)復興まちづくりを担う住民組織(町内会、消防団、婦人会など)、行政、復興支援団体(NPO、民間研究所など)、各種経済団体、文化活動団体(伝統芸能保存会、老人クラブなど)、主な事業所等、に対して、次のような項目に関して、聞き取り調査を行った。ヒアリング項目は、①各組織の活動理念、②各組織の分野的な活動範囲、③各組織の地理的な活動範囲、④他の地域組織との関係(他の組織の役員との兼任状況、活動理念や活動領域の重なり具合など)、⑤地域外の組織や個人との関係(量的な関係の広さ、および関係の性質など)、⑥復興事業への見解、⑦東日本大震災前後の災害過程の各フェーズにおいて①~⑥がどのように変化したかなどである。これらのヒアリングから、それぞれの団体・組織が、共有する地域イメージや復興の方向性をどのような繋がりのなかで紡ぎだしてきたのかを理念的に再構成していくことによって、地域の集合的記憶や地域アイデンティティの(再)構築の方向性や今後の可能性を吟味した。それらの再編成のプロセスを見ることは、今後の地方都市圏における中心-周縁関係のあり方の比較検討を行ううえでも有益であった。また、本年度も他の国内災害の事例や海外の災害事例について、地域の集合的記憶や地域アイデンティティの変容の観点から文献研究を継続し情報整理を行った。
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