研究課題/領域番号 |
15K03888
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
樫村 愛子 愛知大学, 文学部, 教授 (70319169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スクールカウンセリング / 心理学化 / スクールソーシャルワーカー / つなぎモデル / 精神分析 / 教育心理 / 学校福祉 / キャリアカウンセリング |
研究実績の概要 |
2015年度、チーム学校、スクールソーシャルワークの導入などが検討され、本研究のニーズや意義が高く、スクールカウンセリングの転機であると感じられた。教育現場に異なる論理としての臨床の論理をどのように導入しようとしたかについて、導入に関わった専門家たちの研究書等、文献の分析を行い、調査の分析枠組みを構築していった。先行研究を確認したが、予想していたとはいえ臨床心理学的・個人的な分析が多かった。 愛知県でのスクールカウンセラー経験者や、豊橋でのスクールカウンセリング導入のキイパーソンにインテンシヴな聞き取りを行い、スクールカウンセラーが置かれている状況や問題、また豊橋のモデルケース的な事例を入手した。①校長先生や地域の特性(新興住宅地や貧困地域など問題を抱える地域)によって、現場が大きく左右されること、②教員は異動が多いという特性(①やスクールカウンセラーの異動とも連動し、状況が変動すること)、③スクールカウンセラーが学校で子どもたちにかかわる時間的制約によってどちらかというとコーディネート的な機能が高いこと、④③のソーシャルワーク的・コーディネート的な機能についての研修は、あまり十分になされておらず、個々人のOJTに寄っているらしいこと、⑤スクールカウンセラーを、臨床心理士が担当するケースと、静岡のように退職校長などが担当するケースの大きな差異、⑥地域差と、地域内での地域特性(貧困ほか問題地域)における全国的な共通性という両方のスケールが予測されること等を確認した。 さらに2015年度、スクールソーシャルワーク制度の立ち上げの契機に伴い、スクールソーシャルワーカーやその育成に関わる教員・研究者たちと、学校福祉研究会を立ち上げ、スクールソーシャルワーク研究史や現場事例を研究し、私自身は特にスクールカウンセラーが持つスクールソーシャルワーク的機能について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査の枠組み構築のための準備が中心となり、2015年度から開始予定だった地域でのパイロット調査と聞き取りについては、遅れている。その理由として、(1)カウンセラーへのアポ取りのアクセスの固有性と教育委員会へのアクセスの困難さが予想されること、(2)カウンセリングが個人に照準した機能であり、その評価は難しいことを改めて確認したこと(それを確認することも研究の一部であり、残りの期間でそれについて検討する)、(3)スクールカウンセリングは常駐ではなく僅かなかかわりしかできないことを確認したこと(コーディネート機能が中心であること)、(4)それゆえアクセシビリティやアウトリーチはなかなか進んでおらず、学校教育の組織の中でどのように機能するかが問題の中心となっていると予想されたこと、(5)教育と臨床の論理の差異とその関係についての評価を現場との関係でどのような方法で行うか(とりわけ対等な立場というより、教育組織に従属している状況でどのように評価するか)の考察が難しい、(6)それゆえ(5)と地域の関わりをどう定めるかはさらに難しい課題である、などである。地域との関係については、学校福祉とスクールソーシャルワークの観点の利用を考えている。実際にスクールソーシャルワークの方が地域との関わりが深いので、そこからスクールカウンセリングの問題を考えていく方法もあると思われる。 なお、スクールソーシャルワーカーや教員がスクールカウンセングの独自の社会的機能を十分理解していないことをしばしば観察した。この点で、私の行っている研究の意味と価値は高いと考えられた。 愛知県でのスクールカウンセラーの聞き取り、学校福祉研究会を通じたスクールソーシャルワーカーの聞き取りから、実態がつかめることも多かったので、枠組みの構築をしながら手探りでパイロット調査を本年度はさらに進めていきたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はパイロット調査および本調査を少しでも多く進めたい。まず、いくつかの地域(とりわけ京都・東京などメインの地域)の臨床心理士協会のスクールカウンセリング担当者と連絡を取り、聞き取りを行う。また、地域差を見るために、地域のケースを現場のカウンセラーや教育委員会にも聞き取りを行う。 スクールカウンセラーは、多様な現場とスタッフの異動といった流動性の中で、コーディネート機能を発揮する必要がある。スクールカウンセラーのスーパーバイズを行っている、各地域の臨床心理士会から、可能な形で情報を入手し、聞き取りを行い、現場における実態や問題を確認する。 スクールソーシャルワーカーが導入されている地域については、地域の問題に向き合い、地域との連携が進んでいる。スクールカウンセリングとスクールソーシャルワーカーの連携はあるか、すみ分けはどのようになされているかも確認する。教育委員会や親との関係など複合的な分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
スクールカウンセリングの学校での利用頻度がまだまだ少なく、スクールカウンセラーの学校に対する関係も従属的であることがわかったため、アクセシビリティやアウトリーチといった、当初の調査目的の機能まで考察できないことが予想され、比較的なフィールド調査をどういう枠組みで行うか、調査計画構築の準備段階が長引いた。スクールカウンセリングは常駐ではなく僅かなかかわりしかできないこと(コーディネート機能が中心であること)、コーディネーター的関わりは、現場の個別性との関係で、カウンセラーの個人的能力に依存していること(システム的な研修は不十分である)を確認したため、どのように比較調査の柱を立てるか、考察が長引いた。 そのため、27年度行うはずだったパイロット調査があまり進まず、旅費の使用が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
パイロット調査および本調査の旅費に充てんする。 スクールカウンセリングのコーディネーター的関わりは、現場の個別性との関係で、カウンセラーの個人的能力に依存しているが、事例検討やスーパーバイズで情報の蓄積はあると考えられるため、各地の臨床心理士会の担当者の聞き取りによって状況が把握できるだろうと思われる。
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