本研究は、筆者が展開している自治体(大阪市、大阪府、大阪府堺市)と連携した脱暴力の臨床社会学的実践の試み(男親塾と呼んでおり、それに伴う各種の研修、ケースワークスーパーバイズ、個別相談等)に基づいている。これらは虐待家族の再統合事業の一環である。内容は、暴力臨床、家族臨床であり、全体は臨床社会学的なケースセオリーを構築する過程であり、父親の暴力を中心とした虐待家族の特徴の全体像把握と個別家族の事例研究とを重ねてきたことになる。対象とした個別の家族は18事例である。研究期間とケースワークの期間は重ならないが、何らかのかたちで家族の再編といえたのは、4年間とおしてみると父親の実数としては9家族である。残りの家族は事案継続中である。 本研究の成果は次のとおり。第一に、暴力加害ならびに加害者の特徴を「関係コントロール型暴力」と定義できたことである。男性性ジェンダーに由来する暴力行動が習慣となり問題解決行動として常態化していること、それが家族的な日常習慣として発現していることを男性の行動の描写と語彙や言説とケースワーカーの記録をもとにして把握できた。なかでも「強いるコントロールcoercive control行動」があることを確認し、関係性の病理としての側面を強調すべきことを考察してきた。 第二に、社会制度としては、回復と治療なき単なる「厳罰化」でもなく、個人化・医療化・心理化された「治療命令」でもない、男性性ジェンダー論の知見をもとにした脱暴力への臨床社会学的な場への参加命令が治療的司法・修復的司法として必要かつ有効なことを明らかにしてきた。 第三に、離脱過程にとっては、ペアレンティング(親性の涵養=タテの関係)に傾斜しがちなケースセオリーに対して、パートナーシップ(夫婦関係=ヨコの関係)を重視した適切な家族システムへの介入と支援が必要なことを考察してきた。
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