研究目的は近代化過程で「治者の教養」がどのように再構築されてきたのかを解明することにある。その問いに対して、3年目の平成29年度は、2つの作業をおこなった。 第1に、治者の教養を、思想的に掘り下げて探究した教養派知識人の代表格である阿部次郎を、同時代の社会状況やエリート文化とあわせて分析すること(竹内)。これは『ちくま』への連載がすでに完結した「教養派知識人の運命:阿部次郎とその時代」を図書にまとめる作業として、竹内が前年度に引き続きおこなった。これは平成30年度中の刊行を目指す。 第2に、治者の教養を、統治のテクノロジーという関連から検討すること。前者が読書や師の人格を通じて身につける教養であり、その教養を求める同志の関係に着目したのに対して、後者は自己や身体や組織のパフォーマンスを向上させる技術や制度に着目する(牧野・井上)。例えば牧野は「オフィスにおけるフローの諸統治」(2018)で、知的創造性を向上させる空間設計のトレンドを取り上げ、井上は「参加型パラダイムは民主化の夢を代替しうるか?―ポスト代表制の学生自治」(2017)で代表(representation)から促進(facilitation)へのパラダイム転換を論じ、「知の変容とアカデミズム―講座制・教養部・師弟関係」(2018)で高等教育システムの昭和的な二極構造のなかで生まれたアカデミズムと知の緊張関係と師弟関係を論じた。
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