研究課題/領域番号 |
15K03900
|
研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
三木 英 大阪国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60199974)
|
研究分担者 |
渡邊 太 大阪国際大学, 人間科学部, 講師 (80513142)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | アートプロジェクト / 展示 / アーカイブ / 慰霊碑 / 地域共同体 / 民族団体 / 追悼式典 |
研究実績の概要 |
平成28年度は東日本大震災被災地の他に、1943年9月1日に発生し1000人を超える犠牲者を出した鳥取地震の被災地、1945年1月13日に2300の生命を奪った三河地震の被災地、そして2011年2月22日に185人が死亡したニュージーランド・カンタベリー地震の被災地に調査の足跡を残した。 東北とくに福島県では、震災記憶を留めることを目的としたアート・プロジェクトの調査に従事。被災をめぐる展示方法についてのデータ収集に努めた。 鳥取と三河を襲った大地震は第二次世界大戦中のことで、この惨事を知る者は、当該地に縁のある者を除けば、多くない。政治的意図によってこの出来事が大々的に報じられることがなかったからである。とはいえいま、当該地においてかつての大惨事が忘却されているはずはない。ではどのように過去の出来事は伝えられているか。その現状を知るために調査に出向いたのである。 カンタベリー地震の発生は、東日本大震災直前の2011年2月22日のことであった。日本人の犠牲者も28人と多く、中国人犠牲者も23人を数えた。すなわちこれは、犠牲者たちの背景にある宗教文化が多様であることを意味する。またニュージーランド自体も(多様な宗教文化を持つ)移民たちによる国家であることは言を俟たない。そうした社会環境下で犠牲者追悼という宗教的行為がどのように為されているのか。それを知るためクライストチャーチ市で地震発生日に挙行された追悼式典に参加し、東日本大震災被災地での追悼行事との比較を念頭に、データ収集に努めたのである。 これらの調査から、記憶継承を意図的に担う社会集団の重要性に気づかされた。東日本ではプロジェクトチーム、鳥取では民族団体、三河では地域共同体がその集団である。そしてニュージーランドの事例では、宗教文化を横断する追悼のスタイルを創造した行政・市民の連合体が、それに該当するであろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで社会学者あるいは宗教学者は、記憶継承というテーマを被災地内外の多くの人々と共有しながらも、アートに目を向けることが出来ずにいた。継承のための媒体としてのアートの力をここで再発見できたことは、平成28年度に遂行した研究の大きな成果といってよい。 また、地域共同体の疲弊が全国各地で指摘されるなか、それが震災記憶の風化に作用しうるものであることを改めて確認しえたことも、成果といえる。このことは、逆にいえば、共同体の維持が社会の記憶の維持とパラレルであるという原理の発見である。さらにいえば、疲弊する共同体のなかで地域の変わらないランドマークと指摘しうる寺社に、記憶継承の力の具わることを本研究は見出したのである。 そして行政の果たすべき役割も、28年度の研究から見えてきたように思われる。ニュージーランドにおいて行政は、死者を悼む人々をその信条・宗教・宗派を超えて動員し一堂に会させる式典を創出していたが、それは日本で挙行される式典と同一ではなかった。二つの国における行政主導の式典を比較する必要に気づかされたことも、28年度における研究の成果といえるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度では、東日本大震災被災地におけるアートプロジェクトの調査を深めてゆく。具体的にはプロジェクトメンバーやドキュメンタリー映画監督らにインタヴューを実施する。同時に、震災遺構の展示をめぐる多方面からの声を聴き取って、被災地における大震災をめぐるディスクールを分析する予定である。 また、28年度に実施してきた「旧」被災地での調査を継続する。記憶の継承をテーマに掲げる限り、過去の事例に参照することは不可欠だからである。これまで京丹後、鳥取、三河において調査を実施してきたが、29年度においては1948年に発生し3769人の死者・行方不明者を記録した福井地震の被災地を先ず、訪れる予定である。また2007年の能登半島地震被災地にも赴きたい。死者は1名であったがゆえに、おそらくはその数値の小ささのゆえに、いまこの地震の記憶は全国レベルでは薄れようとしていると想像される。では現地ではいかがか。現地においては、この地震を伝え続けようと努力が続けられているのではないか。その現実に、迫ってゆきたい。同様に、中越地震(2004)、中越沖地震(2007)の被災地にも足を延ばすことを希望している。可能な限り多くの――海外の被災地を含む――事例研究を積み上げること、これが最終年度の課題である。 上記調査に並行して、天災ならぬ人災によって傷ついた心の癒しがいかに行われ、その事故の記憶がいかに伝えられようとしているかにも着目しての調査を遂行したい。具体的にはJR宝塚線脱線事故(2005)、日航機墜落事故(1985)の遺族・関係者にアプローチするのである。 そして人災のケースと天災のそれとでの比較を行う。この作業を進めることで、宗教が現代の傷ついた人と社会に対して何ができ、何ができないのかが浮き彫りにされてくるはずである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
19245円は、研究分担者である渡邊太による経費計算上の単純ミスに発するものである。渡邊は主に東日本大震災被災地をフィールドとして調査を遂行してきた。居住地である大阪府と被災地(とくに福島県)との往復に要する旅費、現地での移動に伴う交通費そして滞在費を勘案して、調査計画を練ってきた。しかしながら実際に要した金額が、結果的に計画よりも安く抑えることが出来、そのために差額が生じることになったものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
19245円は全体経費からみれば少額であるが、フィールドワークによる研究を推進する我々にとり、大変貴重なものである。フィールド(=現地)での移動に要する交通費は元来が相当なものであるが、それに加え、被調査者から得る情報次第で調査計画をはみ出しての移動を余儀なくされることも十二分にありうるからである。繰り越し分はそうした事態に応じるために使用してゆく所存である。
|