研究課題/領域番号 |
15K03903
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
金子 勇 神戸学院大学, 現代社会学部, 教授 (50113212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地方創生 / 社会参加 / 生きがい / 世代間交流 / 日本遺産 / まち、ひと、しごと |
研究実績の概要 |
国策の一つである「地方創生」に高齢者がどこまで関与できるかが研究の主目的である。まずは、奄美大島の過疎地域で、高齢者の社会的ネットワークが高齢者のアクティブエイジングにどのような効果があるのかを調べた。いわゆるソーシャルキャピタルとして「親戚が多い」、「友人関係の豊かさ」、「地域の人々はほとんどお互いに知り合い」という状況が把握されたので、限界集落に向かう地域でもまだ「創生」展望があることがわかった。特に友人数の多さが高齢者のアクティブエイジングに肯定的であることにより、それを媒介にした「地域創生」その延長上にある「地方創生」に至る一般化可能なルートが見えてきた。 第二に、兵庫県篠山市で日本遺産として2015年に第1号認定を受けた「デカンショ節」を軸に、観光開発だけを超えた「地方創生」活動を高齢者を主体として追究した。主な実績としては、以下の2点になる。(1)歴史的経緯や地域社会の風土に根ざし、数世代を超えて受け継がれている伝承、風習等を踏まえたストーリーを高齢者が担っている。2)ストーリーの中核には、地域社会の魅力として発信する明確なテーマを設定のうえ、建造物や遺跡・名勝地、祭りなど、地域社会に根ざして継承・保存がなされている文化財に関連するものが据えられており、高齢者が一番詳しい。 第三に、「地方創生」は「まち、ひと、しごと」の総合化により完成するので、調査の成果を交えてその理論化を図ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地方創生が対象とする地域社会の課題は「活発な営みを始める」こと(activation)であった。その内訳で、一つは残存(survivalである。これは最低限の地域性維持のため、これ以上の構造縮小と機能低下を食い止めるものである。第二は再生(revival)であり、構造縮小と機能低下を止め、特定構造を変えて、機能水準の上昇を図るものである。第三は、創造(vitalization)であり、これは構造縮小を反転させ、新しい機能を創り、全体の構造と機能を変えるに分けられ、それぞれの事例研究を行った。 「創生」を課題とする当面の地域社会がこのどれに該当するのかを決定して、「地域性」(locality)構造の高齢者の活動を正確に位置付けることができた。特に社会参加と相互扶助が、地方創生の「まち」「ひと」に及ぼす影響力が分かった。
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今後の研究の推進方策 |
「まち」、「ひと」、「しごと」を高齢者の活動を軸に「地方創生」の要として位置づけていくことが最終課題である。 そのための地方創生の条件として、地域での創造性を増大させる方策が以下のように考えられる。それはいわば地域社会をもっと創造的にするためのアイデア集である。まずは、付加価値型の事例を通して「しごと」の創造をモデル化する。二つには、共有経済型の事例により、商品、資金、サービスの交換・共有によって生まれる創造性をまとめる。三つには、資源活用型として、地域ならではの資源を使って新しい商品やサービス生み出すモデルを展開する。 いずれのモデルにも、高齢者の経験を組み合わせて、独自性に富むものを探究する。この立場で、地域創生に向けて理論化の骨格を強化するために、生協や郵便局や中小企業を活用した情報化地域福祉拠点造りを分析する。これは地域社会全体で互いに勇気づけ、信頼し、援助しあう拠点になる。地方創生は世代間交流のコミュニケーションによる相互鼓舞こそが支え合いの基盤になり、そこから新たな「まち」、「ひと」、「しごと」が生まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の開始時点の研究協力者は北海道大学大学院博士課程院生4人であったが、2年目にそのうちの中国からの留学生が本国で日本語講師として採用になり、帰国した。そのために、予定していた1人分の調査旅費が残った。さらにもう1人の研究協力者が体調不良のために調査活動を控えたことで、あとの2人に調査活動を増やしてもらった。しかし、若干だが、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は研究協力者3名、さらに調査範囲の拡大により、神戸学院大学現代社会学部実習助手2名にも応援してもらい、課題解明に尽くしたい。さらに現地調査では学部3年生10名程度を帯同し、それによって人件費がかかるために、当初の予算通りの使用が可能になるはずである。 私もまた、北海道での地方創生と高齢者活動調査に加えて、研究成果の交流を積極的に行う予定であり、当初予算通りの遂行を心がける。
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