研究課題
本研究は、水俣病被害住民の過去に測定された毛髪や臍帯の水銀値からみた系統的な汚染暴露調査、ならびに原田正純らが行ってきた健康調査カルテによる漁民の健康障害の検討を行い、実際に受給している補償救済(給付)状況との連環(ループ)を検討するものである。その結果から、医学面から定義される水俣病の限界と新たな社会的課題を「水俣病とは何か」の再審という問題構成の中で明らかにすることを目的としている。本年度は、水俣市茂道での1960年から3年間の熊本県衛生研究所が測定した住民の毛髪水銀値と原田正純らが測定した臍帯水銀値のデータを水俣学研究センター所蔵資料から整理した。そのうえでヒアリング対象者を確定し、まず4名について補償救済状況、申請理由と時期、親族関係、食生活の変遷、漁業内容の聞き取りをしたうえで、医学的な検診を行い、2011年の芦北町女島の医学的調査と同様の手法でデータ化を行った。しかし、4月に発生した熊本地震の影響で、自身も被災しながら本学で避難所運営を行った(4月~5月28日)こと、水俣学研究センター所蔵資料の復旧作業に多大なる時間を要した(6月~10月)ことから、十分な調査研究の時間がとれず、当初予定していたヒアリング対象者数には及ばなかった。そのため水俣市茂道において特徴を示す漁撈組織で親族家系図に補償状況をマッピングすること、地図上に補償救済状況をマッピングすることはできなかった。これは次年度に実施する予定である。また、資料整理などのアルバイトもまた被災者であったため雇用を確保できず、地震によりパソコンも破損したため業者発注をしていたが納品が遅れたため827227円を次年度に持ち越すことになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、漁村における社会科学的研究が少ないだけでなく、毛髪や臍帯水銀値、健康障害、補償救済状況という3つの連関を把握し、水俣病被害そのものを捉えなおす試みは本研究が初めてであり、研究の蓄積が極めて少ない中での課題設定である。これまでの研究の蓄積が少ないことの理由に、被害当事者や家族への接近が困難なだけでなく、水俣病多発漁村で水俣病そのものを語ることが極めて難しい点があげられるが、調査研究に原田正純とともに従事してきたため、現地における関係者の協力を得られるばかりでなく、漁民の信頼を得ていることにより、地の利を活かした調査研究を進めることができている。本年度は、これまで関係を構築した水俣市茂道の1960年から3年間の熊本県衛生研究所が測定した住民の毛髪水銀値と原田正純らが測定した70年以降の臍帯水銀値のデータ、さらに「水俣病認定患者名簿」から、補償救済状況についてデータを整理し、ヒアリング及び医学的調査の対象者を確定した。補償救済状況、申請理由と時期、親族関係、食生活と漁業内容のヒアリングと医学的調査を行ったのは4名であった。医学的調査を終えた4名のうち、本人の承諾を得たうえで2名の毛髪水銀値と2名の臍帯水銀値を測定し健康被害状況と合わせて分析した。熊本地震の影響で当初予定していた調査対象者数に及ばなかったため、地域の特徴を示す漁撈組織で親族家系図に補償状況をマッピングすること、地図上に補償救済状況をマッピングすることはできなかった。しかし、次年度に集中して行うことは可能である。ヒアリングと医学的調査、毛髪・臍帯調査が行えたことは、漁業の盛衰と食生活の変容、同居家族内の補償救済状況、漁民の健康被害の内実を一端ではあるが把握することにつながったため本調査の意義は大きかった。ヒアリングと医学的調査は継続しており、住民の協力も得られているため、おおむね順調である。
本研究は、水俣病事件において未だに水俣病の病像論が議論されているなかで、水銀汚染と水俣病の有病率、健康障害や補償救済制度の連環から漁村における水俣病被害そのものを捉えなおすことで研究目的を達成する。こうした作業を経て水俣病事件における研究方法の一般化を図ることになる。次年度は、昨年度確定した調査対象者のヒアリングと必要に応じて医学的調査を集中的に行い、漁民の健康被害ならびに漁村社会の具体的な把握に努める。聞き取りは、痕跡を辿れるよう録音のうえ文字化し、追加ヒアリング調査に反映させる。調査の過程において、新たに臍帯や毛髪が発見された場合は、本人または家族の了承を得たうえで水銀測定を依頼する。水俣市茂道における各漁法の漁撈組織図・親族家系図に補償救済状況をマッピングする。また、全戸の補償救済状況を地図上に視覚化し比較調査の検討材料とする。中間的成果は、水俣学研究センターの定例研究会で討議し、検討材料が不足している場合は追加調査を行い、次年度に行う統計学的解析につなげていく。旅費については、水俣市茂道でのヒアリング、必要に応じ医学的検診を行うため、研究協力者の旅費を計上している。また中間的な研究成果報告のために、日本公衆衛生学会の旅費を計上している。聞き取り調査には、録音や記録をし、録音データはトランスクリプトし記録に残すため、データ量1時間あたり1万2千円の業務委託で算出している。臍帯・毛髪水銀測定は、従前より水銀ラボ(赤木洋勝氏)に業務委託しているため計上した。
熊本地震の影響で、自身も被災しながら本学で避難所運営を行った(4月~5月28日)こと、水俣学研究センター所蔵資料の復旧作業に多大なる時間を要した(6月~10月)ことから十分な調査研究を行うことができなかった。また、資料整理などのアルバイトもまた被災者であったため雇用を確保できず、地震によりパソコンも破損したため業者発注をしていたが納品が遅れたため827227円を次年度に持ち越すことになった。
次年度は、4月からアルバイト雇用し、本年度予定していた医学的調査のデータ整理を行う。またヒアリングの文字起こしは、業務委託を行う予定である。また、再び震災が訪れる可能性もあるため、医学的調査データなどをバックアップするハードディスクを2台、破損したパソコンの代替を購入する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
『水俣学研究』
巻: 7 ページ: 19-34
『部落解放』
巻: 724 ページ: 12-18
http://www3.kumagaku.ac.jp