本研究は、水俣病被害住民の過去に測定された毛髪や臍帯の水銀値からみた系統的な汚染暴露調査、ならびに原田正純らが行ってきた健康調査カルテによる漁民の健康障害の検討を行い、実際に受給している補償救済(給付)状況との連環(ループ)を検討するものである。その結果から、医学面から定義される水俣病の限界と新たな社会的課題を「水俣病とは何か」の再審という問題構成の中で明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度行った原田正純らの1970年不知火海沿岸住民健康調査の水俣市茂道の対象者と熊本県衛生研究所の毛髪水銀値のデータと照合し、存命で医学的調査が可能な対象者の医学的調査を実施した。しかし、全ての対象者の医学的調査を実施するには至らなかった。その背景には、水俣病そのものをコミュニティで語ることができない、そのことによって被害が表出できない状況であり、協力を得るには膨大な時間を要したことがある。被害を表出できないことが患者の受けた被害と実際に受給している補償救済状況に乖離を生み出す要因のひとつであることを確かめた。医学的調査結果は研究会で医師のみならず他分野の研究者を交えて検討を重ねているところである。 当初、計画に予定していなかった行政が定義する水俣病の限界とそれから派生する社会的課題の検討は、暴露、健康障害、補償給付の連環を考察するために計画を見直し実施した。同対象者のなかで、公健法上の認定申請を行い棄却され行政不服審査請求を行っている方や水俣病訴訟を行っている方の参与観察を行い、行政が求めている水俣病の歴史と現在、患者たちにとっての水俣病と補償給付制度の位置づけを検討した。この成果の一部は、第3回環境被害に関する国際フォーラムと、差別禁止法研究会第4回「当事者の集い」で報告した。
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