研究課題/領域番号 |
15K03909
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
土肥 真人 東京工業大学, 社会理工学研究科, 准教授 (20282874)
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研究分担者 |
古山 周太郎 東北工業大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80530576)
杉田 早苗 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (90313353)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ホームレス / データベース / 生活困窮者自立支援法 / ロンドン市 / 川崎市 |
研究実績の概要 |
平成27年度は川崎市を対象に、生活困窮者自立支援法とホームレス(以下HL)自立支援法の両法下での①HL政策の実施状況、②データベース(以下DB)運用状況、③支援利用者層や支援内容の同異を調査した。HL自立支援法下の調査として①「第3期川崎市HL自立支援実施計画」からHL支援事業の内容全般を把握し、②川崎市でHL支援を行っている「川崎水曜パトロールの会」へのヒアリングからDBの運用状況として「相談過程における自立阻害要因の確認の有無」「個人特定ができなかった案件の取り扱い」を把握し、③「川崎水曜パトロールの会」から約1300件の相談情報を提供してもらい支援利用者層や支援内容のデータを整理した。③については2009年の支援利用者層を分析したレポートを作成し、自立阻害要因をもつ人の93.2%がアルコール、ギャンブル、知的・精神・発達障がいのいずれかの要因を抱えていること等が明らかとなった。また平成28年度の予定を前倒しし、東京都の自治体(東京都、新宿区)およびHL支援団体(8団体)にHL政策の実施状況、DB運用状況、新法への移行準備状況、東京オリンピックのHL支援への影響について調査した。 海外調査は9月にロンドンのHL政策やボランタリー団体の支援活動について調査を行った。国のHL担当機関、大ロンドン市、基礎自治体、警察、移民局、ボランタリー団体計14組織にインタビュー調査を実施した。その結果、HLを3カテゴリー(新規層、固定層、流動層)に区分しそれぞれに対応する政策を立てていること、オリンピック時に0名とする目標は達成されず、逆にHL数の増加を見ているが、これは政策の失敗と言うよりは社会的経済的状況の変化によるものだという指摘が多いことなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
川崎市におけるデータベース構築運用に関しては、研究協力団体であるHL支援団体「水曜パトロールの会」から継続的にデータの提供を受け、データベースの充実と、より詳細なデータの統計的分析、支援現場での活用など、確実な展開ができた。これは当初計画どおりであり、統計分析結果は学内紀要として「ホームレス支援における支援情報の現状と課題」東京工業大学社会工学専攻、Discussion Paper No. 2016-03、にまとめ公表した。また他都市におけるデータベースの実態に関しては、「ホームレスの居宅移行プロセスにおける効果的な社会的資源の投下に関する研究―HLの持つ阻害要因に着目して(川崎市の事例より)―」東京工業大学社会工学専攻、Discussion Paper No. 2016-07 として公表した。なおデータベースの統計分析の進捗状況及び生活困窮者自立支援法下での行政実績の蓄積状況などから、生活困窮者自立支援法下での①②③の調査は来年度実施することとした。 海外HL政策調査に関しては、ロンドン調査を実施でき、十分な成果を得ることができた。また、2010年に実施したロンドン調査と、2012年ロンドンオリンピックを挟み、比較検証できるようになったが、これは当初の研究計画どおりである。これらの成果は審査付き学術論文「2012年ロンドン五輪・パラ五輪を契機としたラフスリーピング政策の展開と地域における実態」として日本都市計画学会へ投稿審査中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施を延ばした川崎市におけるHL政策とデータベース運用についてのヒアリング調査を生活困窮者支援所管部局および委託先である「だいJOBセンター」に対して実施する。調査項目としては①実施している事業全般、②相談過程における自立阻害要因の聞き取りの有無、③相談時に個人特定ができなかった案件(データ)の取り扱いなどとする。前年度にヒアリング調査を行った「川崎水曜パトロール」におけるデータベースの内容、設計、運用などそれぞれ担っている役割を明確化し、生活困窮者全体をターゲットとしている「だいJOBセンター」のデータベースとHLに特化した水曜パトロールのデータベースの関係を、理論的実用的に検討する。また同様の事例を生活困窮者支援法による「自立相談支援事業」を実施している全国の自治体およびHL支援NPOに対して、アンケート調査により把握し、特徴的なものについてはヒアリング調査を行う。これらの成果は学術論文としてまとめ公表する。 また昨年度の海外調査により明らかになったロンドンオリンピック前後のロンドン市のHL政策の展開を、わが国の法制度体系などを踏まえた上で、2020年に予定されている東京オリンピックを契機としたHL政策に反映できないか、国および東京都の関係部局、各基礎自治体に対して、動態的ヒアリング調査(提案を検討してもらう形態のヒアリング調査)の実施の可能性を検討する。これは例えばHLを3カテゴリーに分類し対応するロンドンのHL政策の根拠となっているデータベースの役割を、東京において検討することとなる。 海外調査については、韓国におけるHL調査を予定していたが、以上の全国調査を実施するために、来年度に行うこととする予定である。
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