研究課題/領域番号 |
15K03910
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
松永 友有 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (50334082)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会保障政策 / 自由貿易 / 保護貿易 / 最低賃金制度 |
研究実績の概要 |
複数査読者による審査を通過した結果、社会政策学会の機関誌である『社会政策』第10巻第1号(通巻29号)において、論説「草創期の社会保障政策に対する通商政策の規定的影響―第一次大戦前の西洋諸国を対象とする国際比較研究」が掲載されることが決定した(2018年6月刊行予定)。 本稿は、原初的福祉国家体制の草創期である第一次大戦前の時期に焦点を当て、自由貿易か保護貿易かという通商政策レジームの相違が西洋諸国各国における社会保障政策導入のあり方を重要な面で規定していたという新説を実証した。その目的を達成するため、本稿では、老齢・疾病・失業の各リスクに対応する強制加入型社会保険・年金制度、および最低賃金制度に関する広範な各国間比較をおこなった。 西洋の主要工業国をことごとく射程に入れた本稿における国際比較分析の結果、次のような二つの重要な知見が得られた。第一に、各種の社会政策を導入した順序に関しては、保護貿易国が自由貿易国に先行するという明白な傾向が認められた。第二に、保護貿易国と比較した場合、厳しい競争圧力にさらされている自由貿易国は、重い労使負担、特に雇用主負担を避けるため、公費負担に比重を置いた社会保険・年金制度を策定する傾向が認められた。 以上のように、本科学研究費の研究課題である「社会保障政策に対する通商政策の規定的影響に関する国際比較研究」に関して、オリジナリティーのある新説を提起するに至った。 その他、やはり複数査読者による審査を通過した結果、政策史研究では最も権威ある国際ジャーナルである、Journal of Policy History のVol. 29, No.4において、英語論文"The Origins of Unemployemnt Insurance in Edwardian Britain"が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
社会政策に関する我が国の代表的な学会である社会政策学会の機関誌において、複数査読者による審査を通過して、本科学研究費の研究課題である「社会保障政策に対する通商政策の規定的影響に関する国際比較研究」を正面からとりあげた論説が掲載決定に至った。本論説における議論は、イギリス、ドイツ、その他の主要ヨーロッパ諸国の他、アメリカ合衆国、オーストラレーシア諸国(オーストラリア、ニュージーランド)といった主要西洋諸国をことごとく比較研究の対象としてとりあげたものであるため、論文完成に至るまでにはより長期を要することが予期されており、元々は2018年度の投稿を予定していた。したがって、当初の計画以上に進展している成果と言える。 さらに、やはり複数査読者による審査を通過して、政策史研究の分野では国際的に最も権威あるジャーナルであるJournal of Policy Historyにおいて論説が掲載に至ったことも、特筆すべき成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行するうえで、第一次大戦前のイギリスの社会政策に関しては、既に大量の一次史料を渉猟し、著しく調査の進展を見た。また、イギリスの社会保険制度と好一対をなすドイツの社会保険制度については、既に我が国において充実した先行研究の蓄積を得ている。しかしながら、第一次大戦前のアメリカ合衆国の社会政策に関しては、州・都市政府レベル主体に留まっていたため、内外を通じて、未だ十分な研究がなされているとは言い難いように思われる。今後は、第一次大戦前に最低賃金制度を導入していたアメリカの9州における州政府史料を渉猟し、経済開放度が社会政策におよぼした影響を析出しようとする本研究の視点がどこまで妥当するかを調査していく予定である。 すなわち、アメリカ合衆国は国全体としては高度保護貿易国ではあったが、国内関税が存在しない以上、連邦制を構成する各州は他の州との間で自由貿易国と同様な競争圧力にさらされていたのであり、このことが、オーストラレーシア諸国と比較した場合のアメリカの最低賃金制度の限定性に結果したのではないか、という仮説をより具体的に実証していく作業に取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究プロジェクト(私立大学大型研究・研究代表者横井勝彦明治大学教授)を遂行するため、夏季休暇期間中にスイスに長期出張をおこなったため、本科学研究費の研究目的を遂行するための海外長期出張をおこなうことができなかった。 次年度(2018年度)は、アメリカ合衆国に1か月にわたる長期出張をおこない、各地の州政府史料を徹底的に調査・蒐集する予定である。
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