最終年度を迎えた今回の研究業績は、高齢者ケア施設経営の観点からみて、第1に、施設が地域のケア拠点としていかに機能しているか、第2に、施設入居者のQOL(生の質)のみならず死の質にとって施設ケア現場がいかに機能しているか、以上の2点について修正版グラウンデッドセオリーアプローチと日米比較の方法により探索したことである。 まず前者についてだが、地域ケア拠点としての施設の役目についての相違点はつぎのようになる。米国における施設は多様なケアが受けられるという選択肢の存在に価値を置くため、入居者の「地域意識(Sense of Local Community)」の境界線は、行政的な「地域性を越えたもの(Beyond Locality)」であり、住民への選択肢の1つとして施設を機能させていた。他方で日本の施設は、ムラ社会的な歴史と風土に合ったケアに価値を置くため、行政的な「地域性に限定されたもの(Limited Locality)」であり、住民のケアを担うという使命感をともなうものとして機能していた。 つぎに後者についてだが、米国は管理職のアドミニストレーションにより「徹底化された専門性(Super Professionalism)」が重視され、施設ケア現場で不足するリソースについては管理職が外部から調達していた。これに対し日本はケア職のインフォーマルな現場力により「拡大化された専門性(Extended Professionalism)」が重視され、管理職やケア職が内部の多大な工夫によりリソース不足を乗り切っていた。 調査対象は、2015年度から断続的に訪問している日本国内の地方部に立地する2つの特養に加え、米国オレゴン州のマウント・エンジェルとシルバートン、米国中西部に位置するウィスコンシン州のミルウォーキーに立地している高齢者ケア施設である。いずれも相対的に見本となるような施設を選定した。
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