研究課題/領域番号 |
15K03931
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
宇都宮 みのり 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (80367573)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 精神病者監護法 / 精神病院法 |
研究実績の概要 |
本研究の5つの課題のうち、平成27年度は①精神障害者関連法案審議過程にみる法改廃過程分析、③内務省・厚生省・厚生労働省のいう「衛生」概念の変化、⑤市民精神保健福祉活動の歴史的展開および意識の変化分析の3つを中心に、「精神障害者関連法にみる社会政策的意図に関する研究」をテーマとして以下のように研究を進めた。 (1) ①について精神病院法第1条に基づく最初の公立精神病院である大阪府立中宮病院および同病院をとりまく当時の大阪府の経済状況に関する史料を収集し、政策を運用する病院の役割について分析した。戦前期における公立精神病院の中宮病院は、公的病院が本来果たすべき「療養の途なき精神病者」を公費で治療する機能を果たす一方で、治療の要否でなく治安上の問題から行政入院患者を受け入れ、公共安寧の役割を担わざるを得ない時代を経てきたことを明らかにした。精神障害者関連法案審議過程にみる法改廃過程分析は、現在鋭意進行中であり、その成果は平成28年度中に行う予定である。 (2) ③については、健康観や健康形成の技術が大きく変化した江戸期・明治期における「養生」「健康」「衛生」に関する文献を収集した『近代日本養生論・衛生論集成』の中から、必要な文献を抽出し、鋭意分析中である。 (3) ⑤については、現在の精神保健福祉の諸問題が凝縮した現象としての「ひきこもり」に焦点化し、ひきこもりに関する歴史的理解および現状調査結果の分析を行った。その結果、ひきこもりは「個の病理」に限定される問題ではなく、身体的・心理社会的な複合的要因によって一人では解決困難な状態に追い込まれた結果としての現象で、社会の中でその人らしさを発揮する場と機会が奪われていることが問題であることがわかった。ひきこもりに関する研究及び具体的な支援は現在も継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 精神病院法は「適当ナル保護治療」と「公共ノ安寧」という両面性を有しながら、政策的には他の慢性疾病対策との整合性を図り「療養の道なき者」の収容施設建設の必要から1919(大正8)年に成立する。中宮病院は①「定着期」、②「展開期」を経て、③戦争にともなう「停滞期」に陥った経緯を日本社会福祉学会第63回大会で報告した(2015年9月20日) 。 (2)ひきこもりの回復過程には家族以外の第三者の介入が不可欠であるが、①一般の人の肯定的理解を求めにくく政策課題にもなりにくいこと、②ひきこもりの要因は多様であるため個別支援が原則であること、③にもかかわらず当人が抱える不信感・否認感から相談拒否があることが支援のむずかしさであることを第4回日本精神保健福祉学会学術研究集会(2015年6月19)、IALMHで報告(2015.7.12)し、『社会福祉研究』(第17巻)に投稿した。ひきこもる人たちへの支援は、生存や発達に関する権利保障を目標として、教育・福祉・保健・医療・雇用等あらゆる分野の施策を視野に入れる必要がある。ひきこもりに関するさらなる理解を深め、具体的支援の検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進方策として特記すべきは以下の2点である。 1点目に、精神保健福祉領域にとどまらず、学際的な研究会に参加し学問的示唆を得ることが不可欠である。そのため以下の研究会に継続的に参加する。①社会福祉理論歴史研究会、②社会福祉理論実践史研究会、③社会科学的研究方法論研究会である。2点目は、国内外の学会に出席し、最新の研究成果及び研究方法に関する情報を得ることである。 2年目の研究課題は計画書のとおりであるが、初年度の研究成果3点を以下のようにまとめる予定である。 1点目に、明治期の精神病者監護政策についてはこれまでの成果をまとめる。構成は、(ⅰ)精神病者監護法前史、(ⅱ)精神病者監護法の成立過程1、(ⅲ)精神病者監護法の成立過程2、(ⅳ)内務省の「衛生」行政構想、(ⅴ)精神病者監護法の「監護」概念、(ⅵ)民法の「不備」論、(ⅶ)精神医学者の関与、の予定である(①)。2点目に、内閣府および厚生労働省による検討委員会の動向および障害者総合福祉推進事業による調査研究等から現在の精神保健医療福祉の問題点を抽出し、それを歴史的構造的に把捉すると同時に、精神障害者関連法案審議過程にみる法改廃過程から、戦前・戦後の連続・非連続の視点で分析し、精神障害のある人を取り巻く諸問題の持つ不変的な課題を明らかにし、その成果を平成28年度中に報告する(①)。3点目に、平成27年度の研究成果をふまえ、中宮病院の記録を支援理念形成の視点で整理し成果をまとめる(④)。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度中に文書整理作業のためにアルバイトを雇う予定にしていたところ、その作業を自ら行ったため人件費にかかる予算が余ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
文書整理作成のためのアルバイトを雇う。
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